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スマートビルとは?注目される背景やできること、メリットと課題を解説

近年、スマートビルへの関心が急速に高まっています。スマートビルの最大の特徴は、エネルギー効率を向上させるシステムを導入することで省エネルギー化を実現し、CO2削減に貢献できる点です。新築ビルだけでなく、既存のビルにおいてもスマートビル化は避けられないテーマとなっています。

スマートビル化を実現するためには、BEMS(ビルエネルギー管理システム)をはじめとする多様な技術の活用が不可欠であり、ビル内のさまざまなデータを一元的に収集・分析し、その結果をビル管理に活かす仕組みが求められます。

本稿では、スマートビルの概要と具体的なスマートビル化のための重要なポイントを詳しく解説します。特に、ビルの多様な情報をデータとして収集するために欠かせない無線デバイスについて取り上げ、導入コストやランニングコストを抑えつつスマートビル化を推進するための施策を紹介します。

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スマートビルとは

スマートビルとは、最先端のICT技術、AI、IoTを駆使して、オフィスビルなどの運用効率と利便性を向上させた建物のことです。オフィスビルをスマートビル化することで、エネルギーの最適管理、セキュリティの強化、快適な使用環境の提供が可能になります。

エネルギー管理には、多様なセンサーをAIやIoTと連携させ、照明や空調、エレベーターの動作を最適化するためのデータ収集と分析を行います。さらに、クラウドからの気象データとビル内の空調使用状況をAIで分析し、室温を自動で調整しながらエネルギー消費を最適化し、電力使用量とCO2排出量を削減します。

人や車両の出入り管理もビルセキュリティ向上に貢献します。顔認証や指紋認証といった生体認証技術を導入することで、高度なセキュリティを実現し、AIカメラや人感センサーを利用して異常を即時に警備員に通知することが可能です。

スマートビルに関する技術

スマートビル化を実現するために主に活用される代表的な技術は、以下の4つが挙げられます。

1.BEMS

BEMS(ビルエネルギー管理システム)は、建物内のエネルギー使用状況を監視・制御するためのシステムです。従来、ビル管理にはBMS(ビル管理システム)が用いられていましたが、近年、エネルギー問題が世界的に注目される中で、エネルギー消費の最適化がますます重要視されています。この流れを受けて、エネルギー消費管理と最適化を実現するBEMSの重要性が高まっています。

BEMSは、電気、ガス、水道、空調、照明などの設備の稼働状況をセンサーで計測し、収集したデータを分析します。この情報を基に、エネルギー消費を最適化するための制御を行うことが可能です。

2.IoT

ビル内の設備稼働状況データを収集するために不可欠なのがセンサーです。照明の明るさを検知する照度センサー、人の存在を把握する人感センサー、さらに温度センサー、二酸化炭素センサー、ドアや窓の開閉センサーなど、多様なセンサーがあります。これらのセンサーから取得した情報は、IoT技術を通じて一元的にデータ収集・可視化され、効率的なビル管理に役立ちます。

3.AI

さまざまなセンサーから得られるデータを可視化し、AIで分析することで、データの有効活用が可能になります。たとえば、温湿度センサーによる外気温湿度、壁面温度、室内温湿度、床温度のデータや、人感センサー、扉の開閉センサー、気圧、気流センサーの情報を基に、AIが最適な空調設定を自動で行います。これにより、ビル管理の効率が向上し、設備の故障予測精度も高まります。

4.第5世代移動通信システム(5G)

スマートビルの実現には、IoT化された多様なセンサーを活用してデータを収集することが重要です。今後、ビルに設置されたセンサーからリアルタイムで情報を取得し、それをクラウドやAIに送信して処理する「アンビエントIoT」が不可欠となります。このアンビエントIoTの実現には、大容量の通信回線や低遅延のネットワークが求められます。そのため、5GはアンビエントIoTの実現とスマートビルの効率化において、欠かせない通信システムです。

スマートビルが注目される背景

スマートビルが注目される背景には、ビル自体の省エネによるコスト削減のニーズや環境問題への配慮があります。さらに、国際的なエネルギー規制の強化もスマートビル化の推進要因となっています。

ヨーロッパの建物のエネルギー性能規制(EPBD)

ヨーロッパでは、建物のエネルギー性能向上を目指すEPBD(建物エネルギー性能指令)が進行中です。具体的には、2024年12月31日までに、HVAC出力が290kWを超えるすべての三次産業の建物にBACS(建物自動化および制御システム)の設置が義務化されます。さらに、2026年5月29日までに室内空気質(IAQ)の監視が義務化されます。非住宅の建物は、2027年までにエネルギー性能証明書(EPC)を「クラスF」に、2030年までに「クラスE」にする必要があります。最終目標として2050年までに気候中立を達成することが掲げられており、改訂版EPBDではエネルギー効率の改善、リノベーションの加速、新築建物の化石燃料排出ゼロ化が求められています。

ドイツの建物のエネルギー規制と支援政策

2020年11月に施行された「建物エネルギー法(GEG)」は、気候中立建物の促進を目的としています。この法律では、2020年比でエネルギー消費を40%削減することを目標としています。連邦効率的建物助成プログラム(BEG)を通じて、住宅や非住宅の建物のエネルギー効率を向上させるためのリノベーション費用が最大70%補助されます。補助対象には、断熱、窓の交換、ヒーティングシステムの最適化、換気システムの設置などが含まれます。

フランスの建物のエネルギー規制

2019年10月に発行された「Tertiary Decree」により、1,000m²を超える三次産業の建物にはエネルギー消費削減が義務付けられています。この規制は、2022年に学校とオフィスに、2023年にはその他の商業建物にも適用が拡大されました。また、「RE2020」規制は住宅から始まり、2022年には学校とオフィス、2023年には商業施設へと適用範囲が広がり、2025年1月25日までに非住宅用のすべての建物にBACSの設置が義務化されます。

イギリスの建物のエネルギー規制

イギリスでは、2025年1月までに、出力290kW以上の非住宅用建物にはBACSの設置が義務化されます。商業用不動産のエネルギー性能証明書(EPC)は、2023年までに「バンドE」、2027年までに「バンドC」、2030年までに「バンドB」に準拠する必要があります。特にロンドンでは、改修や投資が規制の要件に追いついていないため、今後数年間で多くのオフィスが賃貸基準を満たさなくなる可能性があります。

アメリカの建物のエネルギー規制と支援政策

2022年8月に施行された「インフレ抑制法(IRA)」は、エネルギー安全保障と気候変動対策に3690億ドルを投じ、連邦政府の30万棟以上の建物が2045年までにネットゼロを達成する目標を掲げています。さらに、2024年1月にニューヨーク市で施行された「法律97」により、25,000平方フィートを超える建物は2030年までに40%、2040年までに80%の排出削減が義務付けられました。2024年3月には、SEC(米証券取引委員会)が上場不動産会社やREITに対し、気候関連情報の開示を求める新たなルールを発表しました。

持続可能性とESGの推進によるBACSの採用

2022年から2023年にかけて、ESG(環境・社会・ガバナンス)はCEOの戦略的優先事項としてランクインしています。JLLは2030年までにネットゼロのオフィスのみを利用する方針を発表し、マスターカードはすべてのボーナスをESG目標にリンクさせるとしています。BACSは、CO2排出削減とエネルギー無駄削減に効果的なツールであり、企業の持続可能性目標達成に大きく貢献しています。

アンビエントIoT(環境IoT)の成長

3GPPは「アンビエントIoT(環境IoT)」の概念を導入し、Bluetooth SIGやIEEEもその普及を支援しています。環境エネルギーを収集し、バッテリー不要のデバイスが登場することで、運用コストの削減とメンテナンスフリー化が実現します。環境IoTは、スマートホーム、オフィスの照明、建物の状態監視、電子棚札(ESL)など、多岐にわたる用途で活用されています。Bluetooth SIG(2024年2月)は「アンビエントIoTはIoTデバイスの進化の次の段階」と位置づけ、電波、光、動き、熱などの周囲のエネルギーを活用する新しいクラスの接続デバイスとして位置付けています。IEEE(2024年4月)は、アンビエントIoTとほぼゼロエネルギー通信の重要性を強調し、持続可能なIoTエコシステムの構築に貢献するとしています。

スマートビルでできること

スマートビルでできることとして、大きく次の2つが挙げられます。

1.データの収集、見える化、分析

さまざまなセンサーを活用することで、ビル内の多種多様なデータを収集し、設備の稼働状況などを可視化できます。さらに、AIによるデータ分析を通じて、利用者に快適性と安全・安心を提供することが可能です。

2.遠隔地からの操作

IoTによって収集されたデータは、ネットワークを通じて遠隔から確認でき、それに基づいて機器をリモート操作することも可能です。また、複数のビルを一箇所で一元的に監視・管理することも可能になります。

スマートビルのメリット

新築ビルだけでなく、既存の建物もスマートビル化が可能です。スマートビル化の主なメリットは、以下の3つが挙げられます。

1.省エネルギー化

スマートビル化を通じて、省エネルギー化の推進と電力などのエネルギー無駄使いの抑制が実現します。従来型のビルでは、空調や照明の操作が手動で必要でしたが、スマートビルでは、各種センサーと連動したスイッチにより、無人の部屋の照明や空調を自動でオフにできます。

2.安心安全な環境づくり

トイレなどの施設における防犯対策として、防犯カメラの設置は難しいですが、人感センサーや個室ドアの開閉センサーを活用することで、プライバシーを守りながら利用状況を効果的にモニターできます。たとえば、トイレの個室が長時間施錠されている場合、ビルの警備員に迅速に通知し、確認を行うことが可能です。このような仕組みにより、利用者の安心・安全を守ることができます。

さらに、自走式警備ロボットの導入が進んでおり、これらのロボットと連携することで、警備にかかる人件費を削減しながら、施設の安全性を確保することが可能です。

3.ビル管理業務の効率化

人感センサーやドアの開閉センサーを活用してトイレの利用状況を確認することで、各トイレの利用頻度を把握し、効率的な清掃が可能になります。従来は利用状況が不明なため、一律の清掃が必要でしたが、各トイレの状況を把握することで、無駄を省いた効率的な清掃が実現します。

さらに、複数のスマートビルを一元管理することで、管理に必要な人員を削減し、ビル管理業務全体の効率化が可能になります。

スマートビル実現の課題

新築ビルでは、建築段階でスマートビル化に必要な設備を容易に組み込むことが可能です。しかし、既存ビルのスマートビル化には、導入コストやセキュリティリスクへの対策が重要です。

1.導入コストが大きい

スマートビル化には、各種センサー設置と情報収集のための配線工事が必要で、これが初期費用の大部分を占めます。特に天井裏に配線をするといった場合などの高所作業が絡む配線工事では費用が高くなりますが、無線通信を活用することで初期費用を削減できます。既存ビルをスマートビル化する際には、無線デバイスを活用し、コスト効率の良い導入を目指しましょう。

また、エネルギーハーベスティング技術を使った電池レス、バッテリーレスの無線デバイスを導入することで、メンテナンスの手間を軽減し、ランニングコストも大幅に削減できます。エネルギーハーベスティング技術については以下の記事にて解説しています。

欧米では環境問題への配慮から、バッテリー使用の制限が進んでいます。日本でも、環境に優しいバッテリーレスデバイスの活用が推奨されています。

2.セキュリティリスク

さまざまなセンサーから情報を収集する際には、外部ネットワークを経由する必要があり、セキュリティリスクの考慮が不可欠です。スマートビルの普及に伴い、専用OSの開発とオープン化が進んでいます。オープンOSに対応することで、特定のベンダーに依存せず、多様なデバイスやサービスから最適なものを選択でき、セキュリティ対策の強化も図れます。

スマートビルを実現する電池レス無線通信モジュール「EnOcean」

丸紅情報システムズが提供する「EnOcean」は、エネルギーハーベスティング技術を活用した電池レスの無線通信モジュールです。充電や電池交換の手間を省き、半永久的に使用可能で、ランニングコストやメンテナンスコストの削減に貢献します。

このモジュールは、スマートビル化に不可欠なデバイスとして利用でき、無線通信のため配線工事が不要で、既存ビルのスマートビル化における初期費用における工事費用を抑えることができます。

さらに、EnOceanではOTA(Over the Air)によるファームウェア更新の研究が進められており、実現すればセキュリティが大幅に向上します。

丸紅情報システムズは、システムインテグレーターや設備メーカーとの広いネットワークを活用し、EnOceanベースのデバイス開発に関する情報提供やサポートを行っています。

EnOcean お役立ち資料

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