重要保安部品の提供を通じて、日本のものづくりを支えてきた昭和電気鋳鋼。同社は、品質と生産性の向上を図るべく、工場のDXによる工程の見える化に取り組む。課題は、いかに2m以上の大型鋳鋼鋳物の測定精度向上を図るか。同社が導入したのが、ハンディ型非接触3次元スキャナ「ZEISS T-SCAN hawk(以下T-SCAN hawk)」だ。3次元測定のスタンダードGOMソフトウェアの搭載、女性1人でも持ち運べる軽量・コンパクトが採用のポイントとなった。同社は、豊富な実績とノウハウを有するMSYSを構築パートナーに選択。2022年4月に、T-SCAN hawkの利用を開始した。製品データと鋳鋼鋳物測定データとの差異をカラーマップで可視化し、検査の高度化を実現。さらに、模型検査日数の年間608時間低減、試作品検査時間の年間540時間短縮を見込む。
- 大型かつ複雑な形状の模型や鋳鋼鋳物の測定精度を高めたい
- 検査の高度化とともに検査時間を短縮したい
- 女性1人でも持ち運べる3次元スキャナを導入したい
01[導入の背景]
工場のDXによる工程の見える化に着手
大型かつ複雑形状の測定品質向上が課題に
建設車両部品、産業車両部品、鉄道車両部品など、10kgから4t程度の重要保安部品の製造で利用するのが鋳鋼技術だ。1939年創業、昭和電気鋳鋼は戦前から脈々と培い、受け継がれた鋳鋼技術と経験を強みとする、日本トップクラスの鋳造メーカーである。
鋳鋼とは、炭素含有量2.14%以下の鋼(はがね)を用いた鋳物のこと。切削加工などで実現が難しい複雑形状、中空部を持つ製品などを1工程で作ることが可能だ。また、重要保安部品・重要部品といった特殊用途で求められる、耐食性、耐摩耗性、耐酸化性、強度に優れる。一方で、溶解温度が高く、凝固時の体積収縮も大きいことから、鋳造の際に高い技術力が必要だ。国内では、昭和電気鋳鋼しか製造していない技術レベルの高い鋳鋼品も存在する。
昭和電気鋳鋼は、優れた鋳鋼技術と信頼性の高い品質管理体制のもと、大型建設機械の足回り部品、大型トレーラーの荷台をつなぐ連結部品、エレベーターの緊急停止部品など数百種類に及ぶ鋳鋼品の製造を手掛ける。多品種少量に加え、月産数百オーダーの量産にも対応し、生産量でも全国上位に入る。
時代の変化に伴い、鋳鋼製造へのニーズも高度化・多様化が進む中、同社は「80年以上培った技術と設備」、「ワンチームの現場力」をベースに、「工場のDX(デジタルトランスフォーメーション)による工程の見える化」に積極的に取り組んでいる。2022年度下期の同社経営方針における「見える化」のテーマが、「3次元測定の充実」、「3次元の品質保証」だ。同社 製造管理部 生産技術課 課長 平本勉氏は、測定における従来の課題について話す。
「鋳鋼製造は、『方案設計→模型製作→鋳型製造→溶けた鋼を砂型に流し込む→冷却・砂落とし→熱処理→鋳鋼鋳物検査』が主なプロセスです。当社では、お客様から提供を受けた2次元図面をもとに鋳造設計を行い、模型製作会社に模型とともに3次元データ化を依頼し模型を製作。その後、2次元図面と模型の測定データを比較し、お客様の要件を満たす製品に具現化できているかを、チェックしています。課題は、大型かつ複雑形状、袋形状の内側など、難しい条件での測定品質の向上でした」
※1 鋳鋼鋳物とは鋳造(※2)で作った鋼鋳物
※2 鋳造は材料を融点よりも高温で熱し、液体にして型に流し込み、冷やして目的の形状に固める。鋳造でできた製品が鋳物。
02[導入のポイント]
機動性、運用性に優れた軽量・ハンディ型がポイントに
決め手はグローバルスタンダードGOMソフトウェアの搭載
模型の測定は、アナログ作業で行っていたと同社 製造管理部 生産技術課 生方雅都氏は話す。「曲尺(かなじゃく)や曲線を測るラジアスゲージなどを使った手作業では、1m以上のものは正確性に課題がありました。また、複雑形状の場合、膨大な作業時間を要し、測定できない箇所も存在しました」
鋳造品の測定は、アーム式3次元測定器を利用していたが、測定工数に課題があったと同社 製造管理部 品質保証課 課長 吉川稔氏は話す。「可動範囲がアームによって制約されるため、設置場所を変えて測定し複数データを使って1つの測定データを作っていました。上手く重ね合わせることができなかった場合、やり直すなど手戻りが発生。袋形状の内側などアームが届かない箇所は対応できない点も課題でした」
「アーム式3次元測定器は長さ、重さの両面から、女性の私1人で持ち運ぶことはできませんでした。また設置する手間もかかりました」と同社 製造管理部 品質保証課 田村 玲奈氏は付け加える。
模型測定の3次元化、鋳鋼鋳物測定の3次元化により検査作業が大きく変わると平本氏は強調する。「工業用非接触3次元スキャナとして普及が進むドイツGOM社のATOSでは、カラーマップにより製品データと製品測定データを重ね合わせて差異をカラーで表示。従来、図面と鋳物完成品の違いを確認するのは、経験やノウハウが必要でした。カラーマップなら、ベテランだけではなく経験が浅い人、そして誰が見ても一目瞭然です。データで確認することにより理解が深まります」
2022年1月、同社は機動性に優れたハンディ型非接触3次元スキャナの検討に入った。「複数社からデモンストレーションを含む提案を受けました。MSYSから提案のあったT-SCAN hawkは軽量・コンパクトに加え、大型対象物、ATOSのカメラ式では不可能な袋形状の内側の測定も可能で、さらに3次元測定のスタンダードGOMソフトウェアの搭載が大きな魅力でした。使いやすさ、充実した機能、サポートなど現在から将来に向けて安心して利用できるからです。また構築パートナーには、国内のATOS導入における豊富な実績、GOMソフトウェアに関するノウハウや知見を評価し、MSYSを選択しました」
03[導入の効果と今後の展望]
模型検査年間608時間低減、試作品検査年間540時間短縮を見込む
カラーマップで差異を可視化、改善点特定が的確かつ迅速に
同社は、導入にあたり費用対効果を試算したという。生産技術課では、現行模型の検査日数に要した年間1720時間のうち608時間の低減を見込む。品質保証課では、現行試作品の検査に要した年間300〜1200時間を、年間60〜300時間(試作品測定を5件/月と仮定、中央値:年間約540時間)の短縮を見込む。T-SCAN hawkによる検査作業の効率化は、工数削減はもとより働き方改革や納期短縮にもつながる。
2022年3月、同社はMSYSによるT-SCAN hawkの採用を決定、2022年4月から運用を開始した。実際に利用した結果、試算よりも大きな効果を期待できると吉川氏は話す。「アーム式3次元測定器で2メートルのものを測定するのに1日、その後、3次元データを使った検査に2日を要していました。T-SCAN hawkなら測定に半日、午後から検査に入り、カラーマップの作成まで1日で終わります。また、データを重ね合わせる手間や手戻りも不要です」
3次元データを使った検査について田村氏は説明する。「鋳鋼鋳物の納品では、検査報告書の提出が必要です。1つの製品で検査箇所が100以上あります。従来も、アーム式3次元測定器による3次元データを活用し検査を行っていたのですが、データ量が重過ぎて1つの検査項目を実施するのに30分、最大2時間かかったケースもありました。データ量が重いことにより、PCのレスポンスが遅かったため、データ処理が終わるのを待つストレスがありました。一方、T-SCAN hawkはデータ量が少なく、マウスで3次元データをまわすのも軽快です。そのため、データ処理にかかるストレスも大幅に軽減されました」
T-SCAN hawkは、私1人でも簡単に持ち運ぶことができると田村氏は笑顔になる。「ビジネス用サイズのバッグに3次元スキャナが収納されています。工具を使う感覚に近いです。アーム式3次元測定器と異なり、現場で組み立てる必要もありません。レーザーで少しずつ測定するのではなく、ポイントシールをスキャナでサッと一気に読み取るため、測定スピードも違います。ポイントシールを貼る作業は2メートルのもので10分程度かかりますが、作業全体の大幅な効率化、精度向上の観点で導入効果は非常に高いです」
吉川氏は、「製品納入後、お客様からの品質に関するお問い合わせに対し、データを示してお答えすることで、お客様との信頼関係の強化も図れます」と付け加える。
模型測定も精度と効率が飛躍的に向上したと生方氏は話す。「模型製作会社が製作した模型に関して、T-SCAN hawkで測定した模型測定データと製品データの差異をカラーマップで可視化することで、データに基づき正確に判断できます。また、これまでスケールでは困難だった寸法や形状も測定できるとともに、大型対象物測定の効率が飛躍的に向上しました。さらに、鋳鋼鋳物検査で不具合が出た場合、製品3次元データ、鋳鋼鋳物3次元測定データ、模型3次元測定データを突き合わせることで、改善点特定の的確化、迅速化が図れます」
今後の展望について平本氏は話す。「当社では、模型保管用の倉庫が3棟あります。3次元データを活用し3Dプリンターで造型することにより、模型の作成が不要となります。さらに、保管してある模型をT-SCAN hawkにより3次元データ化することで、模型保管からデータ保管へと切り替えることで模型倉庫を減らす事も可能になります。今後、さらなる効率化、品質向上を図るべく、GOMソフトウェアの機能を使いこなしていきたいと考えています。MSYSには当社の視点に立った提案も含め、大いなる技術支援に期待しています」
鋳鋼製品のニーズに高い次元で応える昭和電気鋳鋼。MSYSは、T-SCAN hawkを通じて、同社の効率と品質へのあくなき追求を支援していく。