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公益財団法人さかきテクノセンター様

企業のニーズに応える先見の明。「モノづくりのまち」を支えるべく、最先端の設備を敏速に導入。

2021年10月、長野県坂城町に金属3Dプリンター「Studio システム 2」が導入された。同システムを導入した「公益財団法人 さかきテクノセンター」は、中小企業だけでなく大企業をもサポートする工業分野の中核センターとして、地域の発展に大きく貢献している。「モノづくりのまち」として成長を続けてきた坂城町にとって、最先端の設備に触れ、その実用性を評価していくことは、町の将来に直結する重要な命題といえる。国内で初めて「Studio システム 2」をフルセットで導入した「さかきテクノセンター」。そのチャレンジ精神に溢れる姿勢は、今後も地域をリードしていく存在として期待されている。

  • 町の主要産業が今後も発展を続けていくには「金属3Dプリンター」の導入が不可欠
  • 多くの企業が利用できる設備として「誰でも使えるシステム」を採用しなければならない
  • 「金属3Dプリンター」を実務で使うには、事前に入念なテスト・評価を実施しておく必要がある

「モノづくりのまち」
として発展してきた坂城町

長野市から南に約20km。長野県の中東部に位置する坂城町は、人口約1万4千人という小さな町ながら、古くから「モノづくりのまち」として国内外に名を馳せてきた。「公益財団法人 さかきテクノセンター」のセンター長を務める工藤氏は、町の特徴について次のように語っている。

「一昔前は『石を投げれば社長に当たる』『飲み屋で社長と呼ぶとみんな振り向く』という冗談があったくらい、企業(起業)の多い町でした。現在でも200社くらいが『モノづくり』に携わる企業として活躍しています。なかには日精樹脂工業や竹内製作所のように上場している大企業もありますが、その大半は先進的な気質を持った中小企業です。製品の出荷先は国内だけでなく欧米諸国をはじめ全世界に及んでおり、1989年にベルリンの壁が崩壊したとき、坂城町のメーカーが製造した建設機械が壁の撤去に使われ、東西冷戦の終結に貢献したという逸話もあるくらいです」

1993年5月にオープンした「さかきテクノセンター」は、長年にわたって地域の産業を支える中核センターとしての役割を担ってきた。その事業内容は人材育成、試験・計測、技術開発支援、企業間交流、情報提供など幅広く、坂城町をはじめとする近隣の企業から頼りにされる存在となっている。

「当センターでは若手技術者の研修やセミナーの開催など、人材育成をサポートする事業を推進しています。また、引張試験や3次元測定などの設備を提供する、小さな試験場としての側面もあります。こういった支援センターが町レベルで設置されているのは、日本国内でも坂城町だけではないか、と認識しています」

「また、個々の企業だけでは解決できない技術的な課題に協力することもよくあります。技術情報になるため具体的な話をできないのが残念ですが、たとえば、その分野の専門家を紹介したり、大学の先生を紹介したりするなど、技術者と技術者をつなぐ窓口として、企業の発展を支援していくことも当センターの大きな役割です」

こう工藤氏が語るように、「さかきテクノセンター」は地域の産業を支える中核的な存在として町の発展に貢献してきた。

引張試験機

企業のニーズに応え、最新の金属3Dプリンターを導入

2021年10月、「さかきテクノセンター」は最先端の金属3Dプリンター「Studio システム 2」を導入した。その経緯について、センター長の工藤氏は次のように語っている。

「金属3Dプリンターが登場した2000年代の中頃から、その存在に注目するようになりました。坂城町は金属加工メーカーが多いため、企業から『導入して欲しい』という要望も数多く寄せられていました。3Dプリンターでないと実現できない形状がある、というのも事実です。とはいえ、数千万円から1億円以上もするシステムを、中小企業が気軽に導入することはできません。興味はあるが、導入に踏み切るにはリスクが大きすぎる。このような背景から、当センターで導入することを決定しました」

ひとくちに金属3Dプリンターといっても、その素性は製品・システムにより大きく異なる。続いては、数ある金属3Dプリンターの中から「なぜStudio システム 2を採用したのか?」について話を伺った。

「専任スタッフが運用するのではなく、多くの企業が利用する設備となる以上、『誰でも使えること』が絶対条件になります。もちろん、そのメンテナンス性や安全性も考慮しなければいけません。Desktop Metal社の金属3DプリンターはBMD方式を採用しているため、金属粉末を扱う必要がありません。扱いやすく、安全性が高いという点で当センターの条件に合致していました。Studio システム 2は有機溶剤も不要になるため、より安全性の高い環境で運用できると考えました」

現在主流になっていたPBF方式の金属3Dプリンターは、原材料に金属粉末を使用するため、防塵や粉塵爆発への対策が不可欠となる。設置場所に十分な防塵・防爆対策を施し、粉塵を吸い込まないように防塵服を着用しながら作業する、といった運用条件が求められる。そのぶん、導入へのハードルは高くなる。

一方、BMD方式は金属粉を樹脂で固めた「棒状の固形物」を材料にするため、健康被害や粉塵爆発の心配がない。扱いやすく、設置場所を制限されないため、導入までのハードルを大幅に下げることが可能となる。

もちろん、金属3Dプリンターの導入にあたっては、その造形性能についても十分に考慮しなければならない。

「導入を決めるまでに様々な金属3Dプリンターを比較検討してみましたが、高精細ヘッドを搭載したStudio システム2なら、薄い壁状の部材も造形できることが判明しました。ベンチマークテストで比較してみたところ、最も優秀な結果を残していたこともStudio システム2に決めた要因の一つです」

「さかきテクノセンター」は約7年前にMSYSから樹脂3Dプリンターを導入した、という経緯もある。こういった経緯も手伝って「Studio システム2」の採用が決定されたとも推測できるが、工藤氏はそうではないと語る。

「過去の経験から、MSYSは安心感のある、信頼できるサポート体制が敷かれていることは熟知していました。しかし、それだけが決め手になった訳ではありません。他社のサポート体制は経験していないので単純に比較できません。導入の決め手になったのは、あくまで金属3Dプリンターそのものの性能が大きいといえます」

金属3Dプリンターを実務に活かすには、
事前のノウハウ収集が欠かせない

納入されたStudio システム2は「さかきモノづくり展 2021」で一般公開され、強い関心を示す企業が何社も現れたという。いまでは金属3Dプリンターの研究会も発足しているそうだ。「コロナ禍の状況であっても、多くの企業・団体が見学に来てくれました」と工藤氏は当時を振り返る。

現在、「さかきテクノセンター」では、金属3Dプリンターの実用化に向けて、実機を用いた様々なテストに取り組んでいる。

「金属3Dプリンターは、導入後すぐに運用を開始できるものではありません。あらかじめノウハウを積み上げておく必要があります。というのも、脱脂・焼結の工程で部材が収縮する際に、空孔ができたり、変形したりするトラブルが発生するケースがあるからです。参考資料として事例集なども提供されていますが、やはり自分の手でデータを集めていく必要があります。金属3Dプリンターは、どういう形状が得意で、どういう形状が苦手なのか、トライ&エラーを繰り返しながら、いまは知見を収集しているところです」

金属3Dプリンターは誕生からまだ日が浅く、技術革新の速い最先端設備となる。それ故に、実際の経験から得られた知見やノウハウは十分に積み上げられていない。「さかきテクノセンター」が率先してテストを繰り返し、多くの知見を得ていくことは、いずれ企業が「使ってみたい」となったときに必ず役立つ資産となるはずだ。

新しいモノを一緒に造りたい
坂城町に拠点がない企業も利用可能

同じ「3Dプリンター」という名前の設備であっても、「樹脂」と「金属」では納期の考え方が大きく異なる。金属3Dプリンターは、造形に数時間、脱脂に1~2日、焼結に1~2日、トータルで1週間くらいの期間を見込んでおく必要がある。また、脱脂・焼結の工程は1回ごとにコストがかかるため、なるべく数を集めて一度に行うと1個あたりのコストは安くなる。

「そういう点でも、金属3Dプリンターを共同で使える意味は大きいと思います。ぜひ皆さんに使っていただきたいと考えています。坂城町以外の企業・団体でも構いません。興味のある方は遠慮なく申し出てください。一緒に新しいモノを造っていきたい、というのが当センターの信条です」

以前に樹脂3Dプリンターを導入した際も、まずは「さかきテクノセンター」で試してみて、その結果をもとに自社での導入を決めた、という企業が何社もあったという。ネットに情報が溢れる現在でも、実際に自分の手で触れてみることの重要性は、いまだ健在のようだ。

「いずれは、金属3Dプリンターを利用している企業・団体が集まってユーザ会やワーキンググループを発足し、情報を共有していけたら・・・と考えています」と工藤氏は今後の展開を見据えている。

「Studio システム2」をフルセットで導入したのは「さかきテクノセンター」が国内で初めて。団体の規模を考慮すると、相当にチャレンジングな試みともいえる。しかし、グローバル化が進み、情勢が刻一刻と変化していく現在では、「挑戦しないこと」は「いずれ淘汰されること」と同意になると考えられる。果敢な挑戦が不可欠な時代だからこそ、「さかきテクノセンター」のように先見の明を持つ中核センターがあることは、企業にとって心強い存在となるだろう。

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