開設70年以上、公立病院として鳥取県南部町周辺の地域医療を支える南部町国民健康保険 西伯病院。高齢化社会が進む中、限られた人材でいかに医療と介護の質を高めていくか。
同院は業務効率化により本来業務に集中する時間を創出するべく、Googleのクラウド型ビジネスアプリとコラボレーションツール「Google Workspace」を導入した。
きっかけは、Googleと丸紅情報システムズ(以下、MSYS)が開催する西日本医療座談会への出席だ。
他の医療機関との交流や情報共有を通じてDX(デジタルトランスフォーメーション)に対する知見が広がった。同院は、既存メールサービス提供業者の事業撤退に伴うGmail導入にとどまらず、オンラインストレージを活用した情報共有やペーパーレス化など業務プロセス改革を進めていく。
- 院内業務を効率化し本来業務に集中する時間を創出したい
- メールアドレスを変更することなくGmailに移行したい
- 「Google Workspace」を最大限に活用するためにサポートを受けたい
■導入の背景
GoogleとMSYS開催の医療機関座談会参加がきっかけに
地域医療の持続的提供に向けてデジタル化を促進
大国主(オオクニヌシ)復活伝説など多くの神話が伝わる鳥取県西伯(さいはく)郡南部町。春には桜が咲き誇り、夏にはホタルが幻想的に飛び交う。歴史と自然に抱かれた南部町において、西伯病院は70年以上にわたり地域住民の健康な暮らしを支えてきた。現在、職員数238名・病床数178床(2024年4月1日現在)を有する。公立総合病院として地域になくてはならない存在だ。また地域包括ケアシステムの構築に向け、急性期から回復期、慢性期、在宅医療まで地域密着型多機能病院の役割を担う。2024年4月には、院内に医療機能と生活施設を兼ね備えた「介護医療院 さくら」を開設し、長期療養に安心と心豊かな時間をもたらしている。
地域医療の最重要テーマは、質の高い医療をいかに持続的に提供するか。地域社会の要請に応えるべく、西伯病院はデジタル化による業務改革を進めている。改革に着手するきっかけについて、西伯病院 事務部医事情報管理課 湯澤氏は振り返る。

「高齢化社会の進展に伴い、医療の果たすべき役割や業務が増えています。職員が本来業務に集中する時間を創出するためには、効率化の推進が欠かせません。議事録作成のデジタル化、ペーパーレス化などの検討を行っていた時に、MSYS担当者の訪問を受けました。いろいろ相談に乗ってもらっている話の流れで、GoogleとMSYSが開催している西日本医療機関の座談会があることを聞いて参加したのが、当院がDXに踏み出すきっかけになったと思っています」
同座談会に出席したことで、他の医療機関との交流によりDXに対する知見が広がるとともに、Googleのクラウド型ビジネスアプリとコラボレーションツール「Google Workspace」を導入した病院の事例紹介も参考になったと湯澤氏は付け加える。「Gmailを上手く活用することで業務効率が向上するといった指摘や、オンラインストレージにより情報共有や同時に作業ができることにもメリットを感じました。多様な機能をいつでもどこでも使える環境の構築により、現在だけでなく将来に向けて当院の働き方改革や介護サービス強化などの取り組みにも有効であるとの認識を得ました」
2024年8月、既存メールサービス提供企業が事業を撤退する。その対応において、同院は「Google Workspace」を有力な選択肢とした。
■導入のポイント
業務改革に向けて「Google Workspace」を採用
寄り添うサポートと信頼感からMSYSをパートナーに
メールは日常業務に欠かせない。2022年に、既存メールサービスの後継事業者から「これまでと同様に使える」という提案を受けていたという。「しかし、メールでは業務改革を推進できません。上司とも相談しながら事務部医事情報管理課として『Google Workspace』の導入検討に入りました」(湯澤氏)

メールの観点でも従来サービスには課題があったと湯澤氏は話す。「デバイスにメールソフトのインストールが必要な上、完全に院内の閉じた世界での利用であったため、出先や自宅でメールを見ることができませんでした。また容量不足のため保存できないケースも生じていたのです。従来の課題解決に加え、スマートフォンが普及する中、Gmailを起点とすることで使い勝手や拡張性にアドバンテージがあると思いました」(湯澤氏)
重要データを扱う医療機関における導入では、安全安心と高信頼性が重視される。「Google Workspace」は、グローバルスタンダードであり、医療機関での導入実績も豊富だ。また、同院が抱える課題解決に親身に向き合ったMSYSから「Google Workspace」の提供を受けることも、採用の大きな理由になったと湯澤氏は話し、説明を加える。
「丸紅の知名度はもとより、MSYS担当者が寄り添っていろいろ相談に乗ってくれました。その際に築いた信頼関係はなによりも得難く感じています。MSYSとの間でコミュニケーションに関して物理的距離はあるのですが、必要な時に速やかにWeb会議を開くことで当院の質問や疑問に対しレスポンス良く応えてもらっています。導入して終わりではなく、そこから業務改革を進めていくうえでパートナーとしてMSYSを選択したと思っています。またコストを抑えるために、必要な機能に絞った提案もポイントとなりました」
同院において「Google Workspace」導入を最終的に決断するためには、「メールアドレスを変更することなく使えること」が求められた。メールアドレスを変えると、関係者への変更連絡などの対応に手間を要するからだ。MSYSはGmailでも既存メールアドレスを利用できる環境を構築し、利便性の高いGmailへのスムーズな移行を実現した。
■導入のプロセスと活用シーン
スモールスタートで効果を確認しながら拡張
メール、Web会議、アンケート作成・分析など幅広く活用
2024年7月に、同院は「Google Workspace」の導入を決定。スモールスタートで効果を確認しながら必要に応じて拡張していく計画だ。既存メールサービスからGmailへの移行においてトラブルを最小化するために、当初は並行運用を実施した。既存メールをGmailに転送し徐々に移行を進め、2024年8月末にGmailに統合。院外でもメールを利用可能となり、利便性が向上。さらに休日でもドクターや管理職に対し電話以外のコミュニケーション手段をとれるメリットは大きい。
「利便性の向上により、既存メールサービスに比べて、Gmailを使うドクターは増えています。今はGoogleのサイトに行ってGmailを開くかたちをとっているのですが、今後はGmail をワンクリックで利用できる、GoogleのブラウザGoogle Chromeの利用を推奨していきたいと思っています」(湯澤氏)

同院は、他社Web会議ツールからGoogle Meetへの移行も進めている。Googleカレンダーと連携し、Google MeetによるWeb会議のスケジュールを設定できる利便性を高く評価。ユーザにも好評だ。さらに、Google Meetの拡張性について湯澤氏は言及する。「Web会議の録画はもとより、文字起こし、生成AIを活用した要約など機能拡張に期待しています」
Googleフォームを使ったアンケートも活用したいと湯澤氏は話し、こう続ける。「これまで院内研修のアンケートを行う場合、印刷して配布し回答記載されたものを回収していました。今はGoogleフォームでアンケートを簡単に作成し、インターネットを通じて回答者とアンケートを共有し回答の確認・回収を実施しています。また、受講者数や回答率などの分析・グラフ化も行えるため、結果の把握も容易です」
同院が参加したイベントで来場者の声を収集したいなど、各事業部でもアンケートのニーズがある。湯澤氏は、Googleフォームを使ってアンケートの依頼に対応。その際、ひな形を使って簡単に作成できることを説明すると、「今後は自分たちでできます」との返答があったと湯澤氏は笑顔になる。
■今後の展望
Googleドライブを使った会議のペーパーレス化にも着手
Googleと密に連携したMSYSの支援のもとデジタル化を促進
同院は、「Google Workspace」を活用し着実に業務プロセス改革を進めている。サイトを容易に作成できるGoogleサイトの活用も検討中だ。「訪問リハビリテーションを展開していくにあたって、Googleサイトを使って当院サイトとリンクした外部サイトを作成したいと思っています。Googleフォームと同様に、テンプレートを利用して簡単に作成・更新が行えます」
懸案だった会議議事録の自動作成では、音声入力の品質がポイントとなる。生成AIの精度向上に影響するからだ。ピンマイクや、複数デバイスを利用しGoogleドキュメントの音声入力の利用など工夫を施している。
会議のペーパーレス化も具体的な取り組みに着手し始めている。従来、管理職やドクターなどが参加する会議では、多くの紙資料が配布されていた。それらを印刷することなく、ドキュメントをGoogleドライブにあげて会議参加者間で共有する。印刷・配布する手間やコストを削減するとともに環境保護にも貢献できる。「Google Workspace」と親和性の高い、GoogleのChrome OS搭載「Chromebook」の導入も視野に入れている。会議の時に、Chromebookを持って行き、院内Wi-FiにつないでGoogle ドライブを通じて資料を閲覧することで、紙資料を持ち歩く必要もなくなる。また、Google ドライブなら複数人で会議資料の共同作成も可能だ。
「Google Workspace」を最大限に活用することで現場のDXは前進する。「Google Workspaceアプリをスマートフォンで利用し、介護サービスにおけるコミュニケーション強化も考えています。『Google Workspace』の多彩な機能や、新機能をどう使うことで、当院の業務改革をさらに進めることができるのか。MSYSはGoogleとの密な連携に基づく提案にとどまらず、当院の視点に立って具体的な支援をしてくれており、相談しながら成果を積み重ねています。これからも変わらぬサポートをお願いします」(湯澤氏) 長きにわたり南部町地域の健康な暮らしを担い、これからも頼れる存在としての役割を果たす西伯病院。MSYSはGoogleと密に連携し、同院のDX推進支援を通じて心豊かな地域社会の実現に貢献していく。