株式会社OPExPARK(以下、OPExPARK)は、「手術室をデジタル化し、どこでも最善の手術を享受できる世界を創る」というミッションを掲げて、2019年に設立されたスタートアップ企業である。最先端のIoT技術を用いて手術室のデジタル化を推進する事業を展開している。具体的には、医療機関の手術室内で行われる手術の様子を映像情報として記録することに加えて、手術における処置などについて、医師による説明の内容も音声データとして記録し、広くナレッジとして活用する。
映像や音声などの膨大なデータの蓄積・処理を伴うこの事業を推進する上で、クラウドサービスの活用は必須である。OPExPARKでは、事業着手時からMicrosoft Azureを利用していたが、今後さらにクラウドサービスの利用拡充が必要になると判断。丸紅情報システムズ株式会社(以下、MSYS)のサポートを受けながら、このほど、Microsoft AzureからGoogle Cloudへのリプレイスを実施した。
Google Cloudへのリプレイスの背景や、今後のGoogle Cloud活用拡大の可能性などについて、OPExPARKの代表取締役 CTO 博士(工学) 鈴木薫之氏に話を聞いた。
- より活用可能性の高いクラウドサービスへのリプレイス
- クラウドサービス利用におけるコスト低減
■クラウドサービスをリプレイスした背景
手術室内のDX推進により、手術のノウハウ・ドゥハウをアーカイブして、コンテンツ活用する画期的新規事業
OPExPARKが推進する事業の柱は大きく2つある。
一つは、手術室内で行われる手術について、映像情報を記録するスマートレコーダーの開発と販売である。手術室内で使用される各種の医療機器から出力される映像情報も用いて手術映像を記録することで、術後カンファレンスの資料として有効活用することはもちろん、手術自体の振り返りに活用することも可能になる。
もう一つは、手術中の映像録画と併せて、手術を担当する医師の協力の下で、行われている手術の手順や手技などについて言葉にしてもらい、音声認識技術によってテキスト変換し、映像と併せてアーカイブすること。アーカイブされた手術データを活用して、教育コンテンツとして配信する事業である。熟練の医師の頭の中にある手術のノウハウや手技などを可視化することができるため、後進の医師たちにとっては、とても貴重な学習コンテンツとなる。アーカイブされたデータを施設や患者様の同意を得てWebで視聴可能な教育サービスとして展開し、病院をはじめとした医療機関や医師たちの利用に提供する。
これらの事業展開では、さまざまなIoTテクノロジーの活用が不可欠である。OPExPARKでも、多種多様な先進テクノロジーやソリューションサービスを活用しているが、特に重要なのが大容量の手術データを保存するためのクラウドサービスだ。

「創業当初から、Microsoft Azureを利用していました。ただ、元々が海外製のクラウドサービスであるため、どうしてもサポート対応が迅速さに欠けるという課題を感じていました。もちろん、これはMicrosoft Azureに限ったことではなく、AWS(Amazon Web Services)やGoogle Cloudでも背景は同じだろうと考えていました。
そのような折に、当社と関係性が強い丸紅グループのMSYSからGoogle Cloudの提案を受けました。提案内容にあったサポート体制などに魅力を感じて、リプレイスを検討することにしました」と鈴木氏はリプレイスの契機を話す。
迅速に対応できる運用サポートの必要性と、医療系AIへの取り組みの先進性が選定の決め手
「MSYSには、Google Cloudに精通した技術スタッフが多く、高い専門性を持っているので、運用で何かあっても、迅速にサポート対応してもらえるなら、こちらとしては非常にありがたいと思ったのです。
また、Microsoft Azure、AWS、Google Cloudの3つを比較検討していく中で、Googleが開発した医療特化型AIモデル「Med-Gemini(メドジェミニ)」にも魅力を感じました。当社としては、今すぐにAIを活用したサービスを予定しているわけではありませんが、将来的なことを考えると、医療系AIにいち早く動いてくれているGoogle Cloudにリプレイスしておくことは、悪い選択ではないと思いました。もちろん、Microsoft AzureからGoogle Cloudにリプレイスすることで、ランニングコストの面でもメリットがありましたので、Google Cloudへのリプレイスを決めました」と鈴木氏。
■円滑なリプレイスの実現
MSYSのサポートで、円滑・スピーディなリプレイスを実現
Google Cloudへのリプレイスを決定し、正式に契約して作業に着手したのは2024年9月末頃。そこから実質1か月程度の作業期間を経て、2024年11月に第一フェーズのリプレイスは完了し、実稼働可能な状態に至っている。それまでMicrosoft Azureで設定されていたパラメーターを参照するなどして、MSYSがリプレイスをサポートした。
「Microsoft AzureからGoogle Cloudへのリプレイスというと、何かとても大変な作業が発生するのではないかと、多少の不安はありました。しかし、実際のところ、当社側で苦労するようなことは一切なく、MSYSが主導する形で、当社のエンジニアとMSYSのエンジニアが二人三脚で作業にあたり、円滑に進めることができました。自分たちだけでやろうとしたら3か月程度は要したであろうリプレイス作業が、実質1か月程度の短期間で迅速に完了できたのは、MSYSのサポート力の賜物だと感じています。また、その後の運用でも、MSYSのエンジニアからは恒常的にGoogle Cloudの運用に関するノウハウを享受するなど、安定的なサポートをいただいています」と鈴木氏はリプレイスはもちろん、その後の運用サポートについても触れた。
OPExPARKでは、複数の事業、プロダクトサービスを展開している都合上、Microsoft AzureからGoogle Cloudへのリプレイスについては、複数のフェーズに分けて段階的に移行するという堅実なステップを踏んでいる。
「今回、リプレイスしたプロダクトについては、ほぼ完成していますが、現状ではテストベースの稼働になっています。何社かのユーザ様にPoCレベルで試用していただいている段階です。現時点では問題なくGoogle Cloudでの稼働が実現できているので、その結果を踏まえて、今後、第二フェーズ、第三フェーズのリプレイス作業に着手していきます」と鈴木氏は作業フェーズについての計画を話してくれた。
■今後のGoogle Cloudの活用可能性
サービス単位でMicrosoft AzureとGoogle Cloudが混在。順次Google Cloudへ一本化
現時点では、Microsoft Azureベースのプロダクトサービスがあり、Google Cloudへのリプレイスが完了しているのは、まだ一部である。
「最終的に目指すところは、もちろんすべてのプロダクトサービスに関してのGoogle Cloudへの完全リプレイスです。すでに第二フェーズのリプレイス作業も動き出しており、MSYSのエンジニアに適切にサポートいただいています。Google Cloudについては、当社エンジニア側にあまりノウハウや知見がないこともあり、MSYSにリードしていただきながら、スムーズな連携で順調に進めることができています」と鈴木氏。

Web視聴が可能な教育サービスは、すでに動画などを閲覧利用することが可能になっている。今後は、視聴者同士の自由なコミュニケーションや、手術した担当の医師と直接会話ができるような仕組みを構築したいと構想しているという。
「教育用のプラットフォーム事業については、次のステップとして、ユーザ同士がチャットシステムなどを利用してコミュニケーションがとれたり、リアルタイムに議論できたりするコミュニケーション機能を追加したいと思っています。手術の動画などを見て疑問が生じた時に、手術を担当した医師に直接質問できる仕組みが理想です。技術的には可能ですが、技術以外の部分で超えるべきハードルは高く、簡単には実現できないかもしれません。例えば、同年代の医師たちが同じ動画で学びながらディスカッションするような仕組みは、ぜひ実現したいと考えています」と鈴木氏がいうように、さらに多くの付加価値を加えることで、教育ツールとしても充実度が増し、利用者の技術の底上げにつながることは間違いない。サービスとしての今後に期待が高まる。
セキュリティ強化や、さらなる事業開発に向けて、MSYSのサポート力とサービス力に期待
一方で、病院などの医療機関や医師がサービス提供の対象となり、取り扱う情報も機密性の高いものを多く含むため、セキュリティ面の強化は不可欠だ。
「取り扱う情報の性質上、3省2ガイドラインというものがあり、厚生労働省・経済産業省・総務省によって制定されたガイドラインに準拠することか求められています。それに準じることは当然として、その上で、ユーザとなる医療機関などに納得してもらえる高度なセキュリティ対応が欠かせません。この点でも、MSYSは強力なパートナーだと思っています。きっかけはGoogle Cloudのリプレイスという課題でしたが、MSYSは情報セキュリティ分野に関しても豊富なソリューションがあり、ノウハウ・知見も深いものがあります。今後、コラボレーションしながら、当社のプロダクトサービスの発展・向上もサポートいただきたいと考えています」と鈴木氏がいうように、医療機関においては、情報セキュリティは重要なポイントである。コンテンツを提供する側の医師、病院も、コンテンツを利用する側の医療機関、医師たちも、情報セキュリティに対しての感度は高い。セキュリティの強化にきちんと対応していくことも、OPExPARKの事業成長には不可欠な要素といえそうだ。OPExPARKは、Google Cloudへのリプレイスを完了させ、新しいサービス開発や、既存サービスの付加価値を向上させることに邁進している。