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日本経済新聞社様

「おサイフケータイ」で「スタンプラリー」。展示会場でのかつてない光景。

2006年に創業130年を迎えた歴史ある日本経済新聞社。
発行部数300万部を超える世界最大の経済紙。
ビジネスマンのみならず、政界、官界、学界など幅広い有識層の読者をもつ日本有数のクオリティペーパーである。
また、日本経済新聞社では経済シンポジウムや産業展示会など各種イベントを幅広く開催し、多彩な事業や各種の表彰制度を通じて社会に貢献している。
その産業展示会の1つが、国内最大級の流通業向け総合展示会「街づくり・流通ルネサンス」だ。
東京ビッグサイトを2週にわたって使用し、新聞社が主催する見本市でも最大規模だ。
多くの注目が集まる中、日本経済新聞社イベント事業本部の桂景一氏は、他に類を見ない取り組みに、果敢にチャレンジする。
出展社と来場者に向けた、モバイル活用の新たな提言。
「街づくり・流通ルネサンス」でしか見られない光景を取材した。

来場者26万人のビッグイベント

見渡す限り、人、人、人である。

あふれかえる人で会場は否応なしに熱気と活気に包まれる。

場所は東京国際展示場、通称「東京ビッグサイト」。2009年3月3日~6日の4日間、ここで総合展示会『街づくり・流通ルネサンス』が開催された。「JAPAN SHOP 2009」「リテールテック JAPAN 2009」「IC CARD WORLD 2009」「SECURITY SHOW 2009」など6つの展示会を同時開催し、翌週の3月10日~12日には「フランチャイズ・ショー 2009」が開かれる、アジア最大級の流通業と店・街づくりに関する総合展示会である。

6つの展示会に4日間で集まった人数は23万6,740人。フランチャイズ・ショーを加えると実に約26万人。この巨大な総合展示会は、すべて日本経済新聞社が主催している。このイベントの企画・運営に携わっているのがイベント事業本部の桂景一氏である。

「当社は新聞社ですので、新聞発行による販売収入と広告収入が事業の柱になりますが、私は『イベント事業本部』に所属し、イベントの企画と開催、運営を主な仕事としています。イベントといっても幅広いですが、当社では美術展、オペラ、コンサートなどの文化事業と、街づくり・流通ルネサンスのようなビジネス系イベントの大きく2つを手がけています。イベント事業本部では、1年間に10本ほどの展示会を開催しています」

今回の展示会のなかで店舗向けの什器や設備などを展示する「JAPAN SHOP」は第38回目を迎え、「リテールテックJAPAN」と「フランチャイズ・ショー」はともに25回を数えることからも、その歴史の長さがわかる。そのため業界での注目度は極めて高く、展示会に合わせて新商品を開発する企業も数多い。

展示会では通常、3m×3mの9㎡を一小間として、出展社が負担するスペースに応じた出展料が主催者のおもな収益となる。主催者はその代わりにさまざまなサービスを提供する。

「主催者である当社の使命は『商談の場の提供』。そのために不可欠なのは、なんといっても集客です。メディアという特性もフル活用しながら、出展企業のニーズに合った来場者をいかに多く集めるかが、展示会の成否を握っているといっても過言ではないでしょう」

日本経済新聞社は、主要メディアである『日本経済新聞』『日経MJ』『日経産業新聞』、さらにグループ会社発行の専門誌など数多くの媒体で、大々的に展示会の告知を行うことができる。さらに、出展企業に招待券を配布したり、過去の来場者のデータベースからDMやメールを送ったりすることでも集客を図っている。『街づくり・流通ルネサンス』に、出展社側が驚くほどの来場者が毎年訪れるのは、日経グループのメディア力と、出展社や主催者の展示会にかける思いとの相乗効果に他ならない。

おサイフケータイでスタンプラリー

「地道な告知活動と出展社の皆様のご協力により、多くの来場者に展示会へと足を運んでいただいています。さらに『商談の場』を増やすためには、ご来場いただく方に、できるだけ多くの会社や商品、サービスを見ていただくことが必要です。そこで、スタンプラリーが面白いのではと考えていました」

例えば、会場内の各社ブースを訪れるごとにスタンプを押し、スタンプの台紙が完成すると賞品が当たる抽選に参加できるという仕組みである。これを行えば、楽しみながら多くのブースを回ってもらえるだろう。しかし、実施するのは最先端の技術やサービスが集結する展示会の会場である。よく目にするような、普通のスタンプラリーでは興ざめだ。そこで目を付けたのが「おサイフケータイ」である。

「ICカード・ICタグの総合展であるIC CARD WORLDを開催していることもあり、フェリカ技術を展示会に活用できないかと考えていました」

非接触IC技術を搭載した携帯電話「おサイフケータイ」を使ったスタンプラリーを展示会で実施すれば、ICカード技術を使った新しい取り組みにもなる。IC CARD WORLD展の趣旨とも合致し、一石二鳥だ。

「少しお遊び的な要素を取り入れて、お得感もあれば多くのブースを回るための動機付けにもなります。ICカード技術の便利さや使い勝手のよさを体感してもらいながら、少しでも会場を盛り上げていきたいという思いもありました」

いくつかの企業の協力を得て、スタンプラリー専用のアプリケーションを開発した。アプリをダウンロードして、住所・氏名・職業などを入力するとスタンプラリーができるようになる。会場の複数の場所にリーダーライターを設置し、すべてかざすと完走となりプレゼントの抽選会に参加する権利が与えられるというものだ。

展示会の招待券を持っていない場合でも、スタンプラリーに事前登録すると無料で入場できるようにして、スタンプラリーに参加するためのきっかけ作りとするなど、少しでも参加者が増えるように工夫した。

「『おサイフケータイ』を使ったのにはもう1つ理由があります。通常、展示会の入場登録では来場者から名刺をいただきますが、後から名刺データを入力するためのコストがかかります。それを少しでも抑えたいという狙いもありました」

桂氏のこうした思いを乗せて、2006年のIC CARD WORLDから、おサイフケータイのスタンプラリーを開始。思惑通り来場者の回遊性も高まり、出展社からも好評だったという。

「スタンプラリーはその後も毎年実施し恒例化していますが、3年続けてみて、新たな課題が生まれてきたのです」

桂氏が抱いた問題意識。それはスタンプラリーの登録者数が、思ったように伸びないことにあった。

「展示会場で感じたことですが、展示会場の入口でケータイをかざしてスタンプラリーに登録するためのリーダーライターを設置しても、来場者は少しでも早く会場に入りたいという気持ちが強く、なかなかスタンプラリーに気を留めていただけないのです」

少しでも早く入場したいという気持ちは、展示会への興味の高さの現れであり、それはうれしいことだ。しかし、おサイフケータイが普及してきたにもかかわらず、2008年の登録者数は前年比で減少してしまった。

「スタンプラリー登録所の後ろで来場者の動きを観察しながら、『リーダーライターのかざす部分を光らせれば目立つのかなぁ』などと思案していたのですが、結局これという案は浮かびませんでした」

そんなとき、桂氏は1つの機器を知る。丸紅情報システムズが取り扱うフェリカリーダーライター『popNAVI(ポップナビ)』である。

それまで使っていたスタンプラリーの告知POPは、紙の説明パネルとおサイフケータイをかざすリーダーライターを組み合わせたもの。音声や映像によるメッセージはなく、それでなくてもざわついている展示会場入り口では「目立ち」が控えめだったことは否めない。

popNAVIは、フェリカリーダーライターに3.5インチの小型モニタとスピーカーが付属しており、音声や映像で「かざす」アクションを促進できる。桂氏はさっそく発売元である丸紅情報システムズと話し合うことにした。

「popNAVIは、画像が次々と切り替わり、それに合わせて音声が流れることで、『なんだろうこれは?』と注目を集められるかもしれないと思いました。また、会期中に100台単位でたくさんの台数を用意できると約束してくれたことも魅力的でした」

おサイフケータイの活用方法が変化

2009年3月3日、総合展示会「街づくり・流通ルネサンス」の入場登録所には他の展示会にはない光景が広がっていた。スタンプラリー登録用のpopNAVIがなんと100台も設置されたのだ。popNAVIからは、街づくり・流通ルネサンスの広告とスタンプラリーの告知が画像と音声で繰り返し流れる。

「おサイフケータイ」をpopNAVIにかざすとスタンプラリーのモバイルサイトへ誘導し、サイトでは今回の仕組みを説明して、参加申込みをするための空メールを送信してもらう。すぐさま、参加登録ページのURLを記載したメールが届き、その登録ページで氏名や会社名、来場目的などの簡単な情報を入力すれば参加登録が完了。あとは、スタンプラリーのデジタル台紙とアプリが自動的にダウンロードされて準備完了となる。

また、各出展企業が協賛し、アプリにはノベルティ配布などのお得なサービスを受けられるクーポンを取り込む機能も用意された。モバイルサイトからクーポンをダウンロードし、協賛各社のブースに持っていけば、その会社のノベルティがもらえるという仕組みだ。また、会場内の特設セミナースペースで行われるワークショップの座席予約ができるクーポンも発行するなど、さまざまな特典でスタンプラリーへの参加を促進した。

そして、桂氏は4日間にわたって開催された展示会で、ある手ごたえを感じたのである。

「昨年までは、IC CARD WORLDに出展しているおサイフケータイ向けの商品やサービスは、電子マネーなどの決済用途が主流で、フェリカリーダーライターも決済に使う商品が多数を占めていました。ところが今回は電子マネー用途の展示が減り、代わって目立ったのが電子ポイントや電子チケット、電子クーポンといった、モバイルマーケティングの関連商品やサービスです。おサイフケータイのアドバンテージはなんといっても『かざす』だけという手軽さにあります。電子マネーが充分普及したいま、これからはマーケティングツールとしての『おサイフケータイ』の活用が拡がるのではないかと思います」

いくつかの成果、次へのアイデア

街づくり・流通ルネサンスは4日間の会期を終えた。

「昨年と比較した来場者数は6つの展示会合計で約23万6千人と、昨年の約26万人より10%近く減りました。スタンプラリーを実施した『リテールテックJAPAN』と『IC CARD WORLD』だけで見ても、約15万2千人と、昨年度の16万5千人よりも約8%減りました。4日間の開催期間中の天候がよくなかったことや、何よりもこの経済危機の影響が大きいでしょうね」

おサイフケータイスタンプラリーの登録者も、期待したほどは伸びなかった。

「かざした人数、登録した人数、完走した人数と指標はいくつかあるのですが、おおむね全体の約2%の来場者に参加いただいたといったところでしょうか。正直、もう少しいけるのではと期待していました」

悪天候、未曾有の経済危機などの環境下、いくつか興味深い成果も現れているという。

「1つは電子クーポンの利用率が向上していたことです」

スタンプラリーへの参加促進として発行したワークショップの座席予約クーポンは、配布総数の約8割が利用された。昨年度は3割程度の利用率だった。

「また、4日間の中で来場者数が最大であった木曜日に、これまでの一日あたりスタンプラリー登録者数の最高である759名を記録したことも成果といえるのではないでしょうか」

スタンプラリーの会期前登録者は減少しているので、会場内で登録される割合が上がったといえる。しかし、それ以上に重要なのは、今回のこの試みから多くのヒントが得られたことだと言う。

「とにかく来年以降は、スタンプラリーに参加する際の敷居を下げることがテーマです。千人単位で参加者数を増やすためには、とにかく簡単、気軽に参加できる仕組みが必要です。具体的には、登録の手間をできるだけ少なくする。例えばケータイで名前、会社名などを入力するのは慣れている人なら苦にならないかもしれませんが、ビジネスマンの全体からするとまだ敷居が高い作業だと思っています」

スイカやパスモが普及し、フェリカリーダーライターにかざして何かをするという行動はすでに一般化し、非接触ICカードの技術も浸透している。

「今回は少し時間が足りなくて実現できなかったのですが、会場案内図とケータイを連動できたら面白いと思います。会場案内図にケータイをかざしたら、見たい分野のブースを順に案内してくれるとか。忙しい来場者のニーズにもかなっていると思います。そして、会場で案内図を見てお目当てのブースをチェックする自然な流れの中で、スッとスタンプラリーが始められるのが理想だと思います」

モバイルマーケティングが注目されつつある2009年、桂氏は来場者の導線上に100台以上のリーダーライターを並べてみせた。

桂氏は言う。「展示会は、新しい技術を試す場であってほしい」

近い将来、展示会はケータイに誘導されて見物することが一般的になるかもしれない。その時には、おサイフケータイスタンプラリーは、誰もが当たり前に参加する企画になっているかもしれない。

確かなことが2つある。その時にも、街づくり・流通ルネサンスでしか体験できない、新しい取り組みが行われているに違いないこと。また、それは来場者と出展社に向けた、新しい「商談の場」創出への挑戦であるということ。

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