1885年創業、日本最古の私鉄である南海電気鉄道(以下、南海電鉄)。同社は、ファイルサーバのサポート期間終了をきっかけに、クラウドストレージサービスBoxを導入しデータ活用基盤を刷新した。ハードウェア自社運用からの脱却、ストレージ容量無制限によるデータ量増大への対応を目指したものだ。パートナーには、丸紅情報システムズ/丸紅ITソリューションズを採用。豊富な実績のもと、導入からサポートまでワンパッケージでの提供が採用の決め手となった。現在、南海電鉄を含むグループ33社のストレージ共有プラットフォームとしてBoxを展開。Box上で蓄積されたデータを活用し、新しい価値創造に取り組んでいく。
- ファイルサーバのサポート期間終了に対応したい
- Box導入からサポートまでトータルで支援を受けたい
- Boxへのデータ移行を確実かつ効率的に行いたい
■導入の背景
ハードウェア自社運用からの脱却、高い拡張性を目的に
ファイルサーバからクラウドストレージへシフト
国際性と先進性を備えた「なんば」を起点に、関西国際空港へのアクセス、高野山をはじめとする和歌山観光、沿線住民の移動を担う南海電鉄。安全・安心・快適な輸送サービスを基軸とし、不動産業、ショッピングモールを運営する流通業など幅広い事業を通じて沿線地域とともに成長・発展してきた。2031年には難波と新大阪・梅田地区を結ぶ「なにわ筋線」が開業予定だ。南海電鉄は、「沿線への誇りを礎に、関西にダイバーシティを築く事業家集団」という2050年の企業像を目指し、南海グループ経営ビジョン2027(2018年度~2027年度)」に取り組んでいる。2027年のありたき姿として掲げているのが「満足と感動の提供を通じて、選ばれる沿線、選ばれる企業グループとなる」だ。
南海電鉄は、「2050年の企業像」、「経営ビジョン2027」の実現に向け、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し事業変革、新しい価値創造、働き方改革などに取り組んでいる。DXのベースとなるのがデータ活用だ。2021年、南海電鉄の業務を支えるファイルサーバのサポート期間終了が迫っていた。代替検討について、南海電鉄 総務人事グループ DX推進本部 IT推進部 井上雄介氏は振り返る。
「ファイルサーバのサポート期間終了は2023年9月でした。機器を更新するか、クラウドサービスを利用するか、二択を検討しました。既存ファイルサーバは自社で運用管理していたのですが、データ量増大に対応しファイルサーバを増設したため、故障対応、保守管理などに多くの工数を要しました。またファイルサーバ不足が深刻化し、ユーザに不要なファイルの削除をアナウンスしても、余り効果が出ませんでした」
同社は、運用管理の負荷軽減、拡張性などの観点から、クラウドストレージサービスの検討に入った。既存ファイルサーバは、同社に加えグループ12社で共有していた。今回のプロジェクトは、将来を見据え、南海グループのストレージ共通プラットフォームの構築を目指した。
■導入のポイント
ベンダー選定では、豊富なBox導入実績のもと
導入からサポートまでワンパッケージが決め手に
同社において、クラウドストレージサービスの選定ポイントは大きく3点あった。すべてを満たしていたのがBoxだった。
1点目は、ストレージ容量無制限
データ量増大に対する拡張性の観点に加え、ユーザに対してファイル削除を依頼するなどファイル容量を心配した対策が不要となる。
2点目は、テレワーク対応など多様で柔軟な働き方ができる環境整備
コロナ以前から、お客様先で資料を提示する際に紙の資料を作成し持参するなど、社外で業務が行えないことで非効率が生じていた。コロナ禍の在宅勤務対策としてストレージクラウドサービスを導入することにより、社外業務における課題を解決できる。
3点目は、コラボレーション促進と生産性向上を図りつつ、セキュリティの維持と向上
ファイルサーバとの違いは、招待権限を持ったユーザが他のユーザを招待できること。社外ユーザとの共同作業が可能となる。また、データを蓄積・保存するだけでなく、様々なエコシステムとの連携、検索性などBoxの多機能により効率的かつ効果的にデータ活用が行える。
「電子サインのBox Sign、承認機能などにより生産性向上にも寄与します。また、利便性とデータ保護を両立するアクセス権限もポイントとなりました。メールに添付するのではなく、リンクを送ってデータを共有することで、セキュテリィ強化が図れます。さらに、Box自身のセキュリティも高く評価しました。世界の政府機関、医療・金融業界などミッションクリティカル分野で幅広くBoxは利用されています」(井上氏)
同社は、Box導入に向けてベンダー4社から提案を受けた。丸紅情報システムズ/丸紅ITソリューションズを採用した理由について井上氏は話す。「他社はBox単体で販売し、サポートは別途購入というかたちでした。当社は、Box導入の知見やノウハウがなかったことに加え、南海グループのストレージ共通プラットフォームとなるため、ベンダーによるサポートが欠かせません。採用の決め手は、豊富なBox導入実績のもと、導入からサポートまでワンパッケージ化されていたことです。また、サポートも含めてトータルなコストメリットもポイントとなりました」
丸紅ITソリューションズが独自開発した移行ツールRocket Uploaderも高い評価を得た。「各部署や、駅などの拠点にあるデータをいかに確実かつ効率的に移行するか。Boxへデータ移行する際に Rocket Uploader を使用してスピーディーにデータ移行できることも魅力でした」
■導入のプロセス
Rocket Uploaderを使ってスピーディーにデータを移行
全社導入後、ユーザ向け Webセミナーを2回開催
2022年1月、Box導入パートナーとして丸紅情報システムズ/丸紅ITソリューションズの採用を決定。「IT推進部の前身であるイノベーション創造室でBoxのトライアルを3カ月間実施しました」と南海電鉄 総務人事グループ DX推進本部 IT推進部 木曽林大志氏は話し、こう続ける。「イノベーション創造室で使っていたファイルサーバのデータをBoxに移行し、リンクの発行や招待など業務で利用しながら使い方を検証しました。すべてのBoxファイルにデスクトップからアクセスできるBox Driveによりファイルサーバライクに使えたことで、慣れていた操作感覚で直感的に利用できました。全社導入した際も、エンドユーザも違和感がなかったと思います」
Boxトライアルを終了した2022年6月から、全社展開に向けた取り組みをスタート。最初のステップとして、移行データ容量を正確に把握するために、社内に点在しているデータの保存先を調査した。事務所ごとに導入したストレージや、個人のPC内にデータが存在していたからだ。
また、部署や個人に合わせてどこまで公開するか、アクセス権限や閲覧権限などセキュリティ設定に時間をかけた。Boxへの移行準備が整ったところで、各部署のデータをRocket Uploaderによりスピーディーに移行を実施。また、各部署に移行期間をアナウンスし、Simple Uploaderを使ってエンドユーザ自身でローカルデータをBox個人フォルダーへアップロードした。混乱もなくスムーズに移行できたと井上氏は評価する。
全社導入時に、丸紅ITソリューションズはエンドユーザ向けにセミナーを2回開催した。「参加者が多かったのでWebセミナーのかたちをとりました。1回目は、Boxの概要、2回目は承認機能やファイルをアップロードするためのリンク発行など具体的な機能について、丸紅ITソリューションズに説明してもらいました。また丸紅ITソリューションズは操作マニュアルの作成も支援してくれました」
■導入効果と今後の展望
南海電鉄を含めグループ33社にBoxを導入
データ活用が今後の重要テーマ
Boxは、南海電鉄を含めグループ33社に導入され、当初のユーザ数も1,400ユーザから3,700ユーザに拡大した。Box導入後、希望するグループ会社に対し南海電鉄IT推進部は説明会を開催している。グループ会社へ導入が拡大した理由について井上氏は説明する。「グループ会社へのBox導入拡大の背景には、大きく2つの要因があります。まず、多くのグループ会社が南海電鉄と同様に、既存のファイルサーバの保守運用コストや容量不足といった課題を抱えていました。そこで、南海電鉄のBox移行を契機に、一部のグループ会社も南海電鉄同様に導入を進められました。 もう一つの要因は、電子帳簿保存法への対応です。Boxはメタデータ活用による効率的な文書管理を可能にし、請求書や契約書などを専用アプリを必要とせずに安全に保管できます。さらに、グループ会社間だけでなく、取引先とのデータ共有もスムーズに行えるようになったことも、導入拡大の大きな要因と考えています」
南海電鉄はBoxを業務改善にも活用している。スマートフォンのBoxキャプチャー機能を使って、工事現場の写真を全社で共有。本社はそれをPCで見て確認し、その場で必要な指示を現場に出すことができる。また、従来社内教育において課題提出をメール添付で行っていたため、人事部門に多くの手間が発生していた。課題提出にBoxを利用したことで、データ集約が不要となり人事部門の負荷軽減が図れた。さらに、CAD図面をBoxにアップロードすることで、鉄道部門、不動産部門なども閲覧可能になった。Boxの図面更新機能も利便性が高い。
1カ月に1回、CSM(カスタマーサクセスマネジメント)定例会議を開催。「Boxの利用状況レポートや最新機能情報などを提供してもらっています。技術的質問にもレスポンスが早く、とても助かっています。当社の業務を深く理解したうえで、改善点や新しい活用方法の提案も期待しています」と木曽林氏はサポートを高く評価する。
今後の展望について井上氏は話す。「Box導入を希望するグループ会社への導入拡大は今後も重要なテーマです。各社においてファイルサーバのサポート期間終了がきっかけになると考えています。年2回のグループIT担当者連絡会では、グループ会社に対しBox導入のメリットなどを説明しており、今後も続けていきます。また、事務所や拠点に散在していたデータの一元管理によりガバナンスを強化するとともに、鉄道情報、店舗情報など様々なデータをBox上で蓄積しています。2024年に、データマーケティング推進部も設立され、データの戦略的活用にも取り組み始めました」
データ活用における生成AI活用について木曽林氏は付け加える。「当社も生成AIの活用を積極的に進めています。Boxも生成AIに力を入れており、社内FAQやデータ検索、要約などに活用できればと思っています」
南海グループのブランドスローガンは「‘なんかいいね’があふれてる」
丸紅情報システムズ/丸紅ITソリューションズは、Boxによるデータ活用のサポートを通じて、沿線地域とともに新たな価値を創造する同グループを支援していく。