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MS&ADシステムズ株式会社様

IoTでリアルタイムに社内会議室を見える化―アイデアが全社展開となるまでの軌跡―

1日の業務の中で会議の占める割合は4割に及んでいた。
世界トップ水準の保険・金融グループを目指すMS&ADインシュランス グループをICTで支えるMS&ADシステムズが外部調査会社に依頼した調査結果だ。
同社は、既存システムの品質向上と新しいデジタル技術の活用を両立するべく、
働き方を見直し生産性を高めるためにスマートワーク(働き方改革)を推進している。
勤務時間30分短縮の目標を掲げ、会議の効率化に取り組む中で、多くの社員から「いつも会議室が満室で予約しづらい」という不満の声が寄せられた。
問題は、予約していたのに会議室を使っていなかったり、会議の開始時間が遅れたりするなど、会議室が効率的に利用されていなかったことだ。
この問題を解決したのがIoT(Internet of Things)を活用した会議室スマートシェアシステムである。
リアルタイムで会議室の利用状況がわかる同システムは当初全社プロジェクトではなく、アプリケーション開発部内の技術検証からスタートした。
「新しい技術を学び、実践で試してみたい」、若きエンジニアの向上心から生まれたアイデアが、どのように全社プロジェクトとなっていったのか。
同社のスマートワーク推進の取り組みと合わせ、その軌跡を追った。

スマートワーク推進で品質向上と新しいデジタル技術活用の両立を図る

「リアルタイムで会議室の空き状況が一目でわかる画面があったら便利じゃないかな」ランチを食べながら2人の若きエンジニアが楽しそうにアイデアを出し合っていた。2人が開発に取り組んでいるIoTを活用した「会議室スマートシェアシステム」は、社内外から依頼があったわけではない。新しい技術にチャレンジしたいという2人の思いからスタートしたものだ。通常業務を行いながら新しいことに取り組むのは時間的、心理的に大きな壁が立ちはだかるものだ。それらを乗り越えるための追風となったのがスマートワーク(働き方改革)だった。

2人の若きエンジニアとはMS&ADシステムズの鏑木氏と中村氏。MS&ADシステムズは、日本国内最大級の損害保険グループであるMS&ADインシュアランス グループの経営戦略をICTで担うシステム中核会社だ。三井住友海上、あいおいニッセイ同和をはじめとするグループの基幹システムの企画・設計・開発を行うとともに、先進のICTを駆使してグループ各社の事業展開やお客さま視点のサービス提供を支えている。

近年、ネット通販やSNSなど圧倒的な顧客基盤とデジタル技術を有するグローバルIT企業が相次いで金融業界に参入し、話題になっている。今や競合となるのは金融業界の企業とは限らない。仮想通貨ビットコイン、AI(人口知能)を活用したロボットアドバイザーなど、金融とITを融合したフィンテック(Fintech:Financial Technology)の潮流の中で、新しい金融ビジネスやサービスの創造が競争を勝ち抜く推進力となる。世界トップ水準の保険・金融グループの実現に向けてICTで貢献するMS&ADシステムズの果たすべき役割はますます重要となっている。
「持株会社のMS&ADホールディングスはデジタル技術の最先端を走る米国シリコンバレーに駐在員を派遣しています。当社でも2018年度には専門部署を立ち上げ、グループの成長に有効なデジタル技術 の提供に注力していきます」と経営企画部 広報室長 八田氏は話す。

新たなデジタルビジネスを支えるICT活用に積極的に取り組むことと同様に、既存の金融・保険システムの品質の追求も止めることはできない。「お客さま第一の視点でデジタル技術の活用と品質向上の2つの挑戦が求められています。2つの挑戦を成し遂げるべく、働き方を見直し、生産性を高めるためにスマートワークを推進しています」とスマートワーク推進室長の南氏は話す。

同社は2011年10月に異なる文化を持つ複数社が合併して誕生した。2016年10月、物理的にも心理的にも一体感を生み出すために、東京都新宿区高田馬場に首都圏の事業所を集約したことをきっかけに、同社のスマートワーク推進が一気に動き出した。

勤務時間30分削減に向けて1日の業務で4割を占める会議を効率化

「当社は“3つの高める”に取り組んでいます」と南氏は話す。その3つとは「仕事の質を高める」、「ステークホルダーからの信頼を高める」、「働きがいを高める」だ。スマートワークの実践を通じて、“3つの高める”の成果を目に見える形にするべく、スマートワーク推進室では4つのサブワーキンググループで様々な施策を実施している。

1.ペーパーストックレス推進: 過去の文書の廃棄とペーパーレス化の推進により約6割の紙を削減。紙の削減量は積み上げた段ボール箱で換算すると、スカイツリー5本分にも及ぶという。

2.ワークプレイス変革:無線LAN全館導入やスマートフォンでの内線電話の利用など、いつでもどこでも誰とでも仕事ができるように環境を整備。また育児・看護を対象とする在宅勤務を実施し、2018年度から育児・看護に限らず、本格的に在宅勤務を推進していく。

3.コミュニケーションの促進: 社内ポータルでの電子社内報を通じて、普段顔を合わせることのない他部門の人の趣味などを紹介することで親近感を醸成している。今後、スマートワーク推進室ニュースなどで時間削減の工夫といったノウハウの共有も図っていく。

4.時間創出・価値向上:同社が1日の業務における仕事内容について外部調査会社に依頼した調査結果によると、メールが3割、会議が4割を占めていた。メールの効率化では、メールの簡略化や必要最低限のCCの推奨などを実施。会議の効率化では事前資料の配布を徹底し、会議は1時間以内を原則とした。同社は前年よりも1日の勤務時間30分削減を目標に掲げている。その実現に重要なポイントとなる会議の効率化に向けて、スマートワーク推進室が各部門に働きかけていく中で、多くの社員から同様の不満の声が寄せられた。「会議室が常に満室でなかなか予約が取りづらい」。本当にいつも会議室は満室なのだろうか?会議室を見に行くと利用されていないケースもあったという。

センサ端末の選定ポイントはボタン式、電源駆動、可愛いデザイン

「IoTを活用しリアルタイムで社内会議室の見える化を実現するシステムを開発してみたい」と鏑木氏と中村氏から提案を受けたときには、全社展開を想定していなかったとアプリケーション開発部 部長 冨田氏は振り返る。「スマートワーク推進室の取り組みとは全く関係なく、当初は技術検証を目的とし、開発部内の会議室での利用を考えていました」

アプリケーション開発部は開発パートナー会社に外注することなく社内外のシステムを自分たちで開発している。技術の蓄積に加え、技術調査も開発部の重要な役割だ。月一回の勉強会も開催しており、各人が情報を持ち寄って技術動向に対するアンテナの感度を高めあっている。その勉強会で「会議室が空いていなくて予約が取りづらい」ことが話題になった。

「みんなで話しているうちに、実際には会議室を使っていなかったり、会議が早く終わってしまっていたり、会議室の有効活用が図れていないことが課題であることに気づきました。この課題を解決するためにリアルタイムなデータ収集・分析が可能なIoTを活用したらどうだろうかという議論をしました。それが今回の会議室スマートシェアシステム開発の出発点となりました」(鏑木氏)
人感センサや照度センサなど様々なセンサを試した中で、無線通信規格BLE(Bluetooth Low Energy)に注目した理由について「世界中で広く利用されており、開発における情報が多かったことと、省電力であることがポイントとなりました」と中村氏は説明する。

BLEを利用した無線発信装置Beacon(ビーコン)端末の選定で重視したのが、入退室時にボタンを押すボタン式であるという点だ。「会議室に人がいるかどうかではなく、会議室を利用しているかどうかをリアルタイムで把握するためにボタン式にこだわりました。またボタンを押す行為により会議室を利用するという実感をもたらす効果もあります」と鏑木氏は話す。ボタン式に加え、会議室に常設となるため電池ではなく電源駆動タイプであること、さらに同社のニーズに合わせて柔軟にカスタマイズできることなどから、丸紅情報システムズの「RapiNAVI Air」が採用された。「コンパクトで、なおかつ利用者に押してもらいやすい可愛いデザインも魅力でした」と鏑木氏は付け加える。

今回の仕組みは、入退室時にRapiNAVI Airのボタンのオンオフで発信された情報を会議室内の超小型パソコンで受け取り、その情報をクラウド上の会議室スマートシェアシステムに送信することでリアルタイムな会議室の利用状況の見える化を実現する。同システムの開発は丸紅情報システムズと密に連携し進められた。

「利用者の目につきやすいようにRapiNAVI Airを照明ボタンの付近に設置しましたが、丸紅情報システムズさんからRapiNAVI Airのボタンのオンオフの色を照明ボタンと合わせたほうが間違いにくいといったアドバイスがありました。また標準ではボタンを押したときだけ光る仕様でしたが、緑か赤に常時点灯するようにカスタマイズしてもらいました」(中村氏)

開発の進行を見ながら冨田氏は社内の様々な場で今回の取り組みについて話をした。「スマート推進室から“いいね”という声があがって、だんだん評価する声が大きくなり全社プロジェクトとして進めることになりました」
2017年12月、同社の会議室利用に欠かせない会議室スマートシェアシステムが本稼働した。「導入コストを抑えるために自分たちでRapiNAVI Airを設置しました。ボタンの押し忘れ防止ステッカーも開発部の仲間がつくってくれました」(鏑木氏)

スマートワークによる時間と心のゆとりが新たなチャレンジを生む

社内のPCで既存の会議室予約システムを立ち上げると、同じ画面の左側に会議室予約、右側にリアルタイムな会議室利用状況が表示される。予約と利用状況を見比べることで、会議室を予約したにも関わらず利用していないことが誰の目にも明らかとなる。また「15分使っていなかったら会議室の予約はキャンセル」といった社内ルールの徹底が図れるなど、会議室利用の意識改革を促す効果は大きい。空いている会議室だけを表示することもできるため、利用可能な会議室もすぐに見つけることができる。同社の社長賞を受賞した会議室スマートシェアシステムは、今後グループ会社の働き方改革に貢献できるツールと考えている。

現在、開発部における技術テーマとして鏑木氏はAI、中村氏はRPA(Robotic Process Automation:ロボットによる業務の自動化)に取り組んでいる。「AIやRPAのテーマに対しても新しい発想で、誰も考えていなかったことをかたちにしてくれるのではないかと大いに期待しています」(冨田氏)

新しい技術を知ることがモチベーションにつながると鏑木氏は話す。「スマートワークによって時間も心もゆとりが生まれたことで、今回の開発では非常にボジティブに動くことができました。また社員がアクティブに自ら発信したものを取り入れてくれる。積極的にチャレンジすることを大切にするのは当社の社風です」。

「自ら考え、自ら行動」×「磨きあい、響きあい」という同社が掲げるスローガンは社員1人ひとりのワークスタイルの根幹に流れている。

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