日本発唯一の国際カードブランド運営会社である株式会社ジェーシービー(以下、JCB)。会員残高数は全世界で1億6400万を超える。
自社でも多くのカードを発行しており、住所変更をはじめとする各種の届け出の処理だけでもかなりのボリュームになるだろうことは想像に難くない。
JCBでは、自社内でのデジタル化・自動化を促進する方向に舵をきっている。しかし、各種の届け出帳票などの種類は、提携先ごとに異なるものも含めると膨大なものとなり、仕分け業務だけでも相当な負荷になっていた。
そこで、JBCが導入したのがMAI-Preparatorである。AI-OCR(光学文字読み取り)の前処理である帳票の分類と仕分けを、高い精度で自動実行するMAI-Preparatorの導入によって、業務の効率化に成功している。
MAI-Preparatorの導入を推進した、株式会社ジェーシービー カードサービス本部 カードサービス企画部 佐々木雄太次長と、同カードサービス企画部 鈴木佳奈主任に話を聞いた。
- 多種多様な帳票をより高い精度で仕分けしたい
- 業務の自動化をより加速したい
■導入の背景など
1.業務のデジタル化・自動化の推進が重要課題
カードサービス本部は、クレジットカードに関するさまざまなバックヤード業務を遂行しているセクションである。
「クレジットカード入会の審査に関わる手続きや、カード会員のお客様から届け出される住所変更などの諸変更の手続きなどを行います。また売上に関する明細書の発行や、売上データのエラー処理などの業務を担っています」と鈴木氏が業務内容を説明してくれた。
こうしたバックヤード業務では、常に業務品質の向上とコスト削減が求められる。「2020年頃からは、ヒト中心の業務体制からデジタル化・自動化できる業務は可能な限り自動化していくシステム・ツール中心の業務体制に舵を切り、以降、フルオートメーションを目指しています」と佐々木氏がいうように、DXへの取り組みが加速した。
2.さらに帳票のバリエーションが増え、もはや人的対応は限界に
JCBでは、金融機関系や流通系など多様な企業とのコラボレーションによる提携カードも数多く発行されている。提携カードに関しては、各提携先が独自のサービスを付加しているケースや、住所変更などの届け出書類などに独自のフォーマットを採用しているケース、など個々の提携先特有の運用ルールが存在するケースもある。「諸変更の届け出書類だけで200種類ほどのバリエーションがあります。業務工程に関しても、細部化していくと約3,800種類もの手順が存在するという状況です。そうした手順を担当者が覚えながら処理していました。しかし人的対応ではコスト削減にも限界があり、デジタル化・自動化の検討を始めました」と鈴木氏。
同じ住所変更届であっても、提携先によって異なるフォーマットであり、その変更届の処理手順も、当該提携先のルール毎に異なる。そのため、作業担当者が目視で届け出書類を判別して振り分けを行い、それぞれ異なるプロセスにのせる必要があった。
現在では、BPMS(Business Process Management System)による業務自動化の基盤を導入しており、従来は人が判断していたものをシステムに自動判定させ、以降のプロセスへ振り分けていけるようにシステム化を進めている。
ここで重要になるのが、入り口にあたる変更届などの帳票をしっかりと仕分けることだ。「最初の帳票の仕分け段階が正確に行われなければ、以降のプロセスに支障を来します」と鈴木氏はいう。
■MAI-Preparatorの本格稼働まで
1.MAI-Preparatorに注目した理由
最初の帳票仕分けの段階が重要であるため、高い精度で帳票の仕分けを自動化できるツールの導入が急がれた。そうした折に、佐々木氏は上司からMAI-Preparatorのことを教えられた。
「MAI-Preparatorに注目したのは、仕分けの際の基準が、100パーセントかそれ以外か、という分け方が可能な点です。例えば、A帳票とB帳票に分ける際、従来の自動仕分けツールだと、多少あいまいな部分があっても、無理やりAかBかに仕分けてしまう。その結果、本来Aに仕分けるべき帳票がBのボックスに入ってしまうことがある。「このような分け方をされてしまうと、結局、人がすべての帳票をチェックしないといけない」ことになるのだと佐々木氏はいう。

「MAI-Preparatorは、確実にAかBかに仕分けられるものはそれぞれのボックスに格納しますが、100パーセント確実に仕分けられないものは、「不明」というボックスに格納してくれます」
つまり、自動仕分けが終わった後で、「不明」に分類された帳票だけを目視で確認し、正しく仕分ければ良いということになる。この「不明に仕分ける」機能があることで、人の作業が大幅に軽減され、業務の効率化につながることを鈴木氏は確信したのだという。
2.PoCから本格稼働へ
早速、MAI-PreparatorのPoC(Proof of Concept:概念実証)を開始した。MAI-Preparatorは、ユーザー側である程度、判定基準の粒度をコントロールできるため、厳密な基準設定により、判定可能な帳票は100パーセントの精度を実現し、あいまいな要素が残る帳票は「不明」分としてはじかれるように設定した。「結果的に、人が判断しなければならないという作業負荷の領域が限定的になり、人的作業が楽になり、業務の効率化を実現できることに確信が持てました」とPoCの成果に満足できたという。
半年ほどかけたPoCで十分に実用化可能と判断し、2025年に入ってからは本格稼働の段階に至っている。
「実は、この2月から、取り扱い帳票の種類がかなり増加することが分かっていたので、それまでにMAI-Preparatorを実稼働に漕ぎ着けたい思いがありました。私たちとしては、この2月以降をフェーズ2と位置付けています」と鈴木氏。MAI-Preparatorの活用ステージは、次の段階に入っているようだ。
■MAI-Preparatorの導入効果と、評価
1.高い精度に満足、処理スピードにも期待
「帳票を仕分ける精度という点では、実稼働以降も十分に効果が上がっていると思います」と佐々木氏は精度について高く評価する。しかし、実稼働以降はPoCと状況が変わり、何らかの対応が必要な部分もあるという。
「PoCの際は、ダミーの帳票を使って検証していましたが、実稼働では実際に紙で届けられた帳票をスキャンしながら仕分けることになります。PoCの際にはなかったイレギュラーな対応なども求められます。徐々に対応のバリエーションも増やし、対応の幅を広げることが必要だと感じています」と鈴木氏。さまざまなイレギュラーケースが発生した時には、必要に応じて丸紅情報システムズ(以下、MSYS)の支援が不可欠だと付け加えた。
処理スピードについては、まだ評価の段階にはないという。「実稼働してから、まだ期間が短いですし、業務上のピークはこれからです。そのため、現時点では処理スピードについて評価できる段階ではありませんが、ピーク時に期待を超える処理スピードが発揮されることを期待しています」
MAI-Preparatorの導入による最大の効果は、設定されている締めのサイクルに確実に処理を間に合わせることが実現できたことだと鈴木氏はいう。
「その日に届いた諸届は、その日のうちに処理するという締めのサイクルがあります。処理枚数が1日に1,000件、2,000件ということも多く、締めのサイクルに間に合わないという事態が懸念されました。しかし、MAI-Preparatorを導入し、仕分けの精度・速度が上がり、その後のプロセスも円滑に進められるようになったことで、遅れの発生がなくなりました。これは大きな成果です」
2.デジタル化・自動化の業務領域を拡大することで業務全体のさらなる効率化へ
佐々木氏、鈴木氏が所属するカードサービス企画部は、フルオートメーションに向けた業務自動化のため新しいソリューションを先駆的に導入していく役割を担っている。さまざまなソリューションについての知見を広げ、他の部署から業務課題について相談があれば、適切なソリューションをサジェスションしていく。
「例えば、煩雑になりがちなドキュメントの仕分け作業を自動化したいという課題をもつ部署があれば、MAI-Preparatorを紹介して、その導入を支援するような動きもあります。実際に導入となれば、MSYSとその部署との橋渡し役をすることもあります。もちろん、その後の具体的な支援については、MSYSにお願いします」と鈴木氏。

そもそも、JCBがMAI-Preparatorを活用するに至った背景は、各種の帳票バリエーションが多くなる中で、より効率的な自動仕分けというソリューションが必要だったからだ。そして、その成功が先行事例となり、他の部署に波及していけば、さらなる業務効率化が実現する。
「他部署でも有効活用できそうなものは、どんどん広げていこうと考えています」と佐々木氏。
今回のMAI-Preparatorの導入に際しても、すでに導入・稼働していたシステムとのAPI連携が可能であったことが有利に働いていたという。
目指すところはフルオートメーションであっても、現時点では人が介在せざるを得ない部分も少なくない。しかし、さらなるデジタル化・自動化を推進していく中で、人が介在する部分をできるだけ減らし、フルオートメーションに近づけていくことが重要だ。