東急線沿線でケーブルテレビ、インターネット、電話などの情報通信事業を展開するイッツ・コミュニケーションズ。
同社のスマートホームサービス「インテリジェントホーム」が大きな関心を集めている。
スマートフォンによる様々な家電の自動制御だけでなく、仕事中、子供が帰宅した様子をスマートフォンで確認できるなど暮らしに寄り添ったサービスが好評だ。
Connected Portal(鍵管理システム)を応用し、民泊事業者が現地に行かなくても事務所で、お客さまに時限式鍵、時限式暗唱番号の発行が可能となるサービスも開始した。
全国のケーブルテレビ事業者を通じて日本各地に展開するビジネスモデルも画期的だ。
付加価値の高いサービスは、既存サービスの利用者拡大にもつながる。
企業の成長に伴いシステムが増え続ける中で、複雑化した運用管理によるコスト増大やリスク拡大は重要な経営課題となる。
課題解決のために同社が着目したのが、シンプルな運用を実現するHCI(Hyper-Converged Infrastructure)だ。
インテリジェントホームとHCI導入の2つのチャレンジを追った。
全国的な広がりを見せるインテリジェントホーム
ドアノブの上に鍵穴はない。スマートフォンのボタンを押すと小さく音が鳴りドアのロックが解除された。部屋に入り、「テレビをつけて」、「エアコンをつけて」の声によりスマートスピーカーと連動し様々な家電が動き出した。家電のコントロールはこの賢い家「インテリジェントホーム」の魅力の一部に過ぎない。ショールームを案内してくれたイッツ・コミュニケーションズ IPプラットフォーム部 主任 菅野有亮氏が「家の中だけでなく遠隔から家の状態がわかるメリットは大きいです」と話し、スマートフォンで、ある画像を見せてくれた。そこにはドアを開けて部屋の中に入った瞬間の画像が映し出されていた。「侵入者の検知はもとより、両親が不在時に子供が帰宅したことを両親のスマートフォンに画像で知らせることができます。また家の中のカメラにつなぐことで、遊ぶ様子も確認できます」。暮らしのIoT(Internet of Things、モノのインターネット)を活用することで家が子供を見守ってくれるのだ。
同サービスを提供しているのは、東京・神奈川を走る東急線沿線を中心としたサービスエリアにお住まいのお客様にテレビ、インターネット、電話などの情報通信事業を展開しているケーブルテレビ事業者のイッツ・コミュニケーションズである。
1987年、ケーブルテレビ事業を開始して以来、同社は多チャンネル放送、日本における先駆けのインターネット定額制・常時接続サービス、Wi-Fi事業など地域に密着しながらも最先端の技術で暮らしに新たな価値を創造してきた。現在、4K放送・8K放送などのテレビの高度化や、インターネットの超高速通信に対応するためにFTTH(光ファイバー)サービスの提供に向けた整備を進めている。
デジタル時代の大きな変革の波が押し寄せる中、同社は「第二の創業期」を迎えている。その象徴的な事業が、2015年にサービスを開始したインテリジェントホームだ。東急グループの総合力を活かすことで生まれる付加価値は大きなアドバンテージになる。例えばドア・窓センサーの反応を検知しサービス利用者のスマートフォンに異常を知らせるとともに、万一の時は東急グループの東急セキュリティと連携し警備員が駆けつける。従来のスマートホームサービスとの違いは、一貫性をもって様々なサービスがつながり、地域密着型で暮らしに寄り添っているという点だ。またケーブルテレビ事業者としての枠を超え、東急線沿線のみならず全国に事業を拡大していくビジネスモデルも画期的だ。ネットワーク技術部 部長 井手一誠氏はその革新性についてこう話す。
「現在、インテリジェントホームの利用件数は少しずつですが伸びており、お問い合わせも増えております。これまで自分の暮らしの中で活用できると実感できなかったスマートホームを、身近に感じることができるといった声が多く、関心度も非常に高いです。インテリジェントホームは提供準備中の局も合わせて、全国45のケーブルテレビ事業者(総接続世帯数約1千万世帯)を通じて順次販売を開始し、今後も提供エリアを拡大していきます」
なぜインテリジェントホームが全国的な広がりを見せているのか。その理由は、地域に根差すケーブルテレビ局だからこその安心と信頼に加え、新たな価値を提供するそのポテンシャルにある。
リモート施錠管理機能を応用し民泊事業者向けソリューションを提供
2017年5月、インテリジェントホームは日本国内で提供しているスマートホームサービスとして初めて、500以上の様々なウェブサービスやアプリ、IoTデバイスなどと連携できる「IFTTT(イフト)」に登録した。様々なアプリがスマートフォンの楽しさを広げたように、インテリジェントホームの利用シーンを拡大するのもアプリが推進力となる。具体例について、IPプラットフォーム部 課長 竹岡肇氏はこう説明する。「位置情報サービスと連携して家の近くに来たら部屋の照明やエアコンがついたり、お天気アプリと連携してエアコンを制御し部屋の温度・湿度の管理を行うなど、自分のライフスタイルに合わせてインテリジェントホームを進化させることができます」
デジタル時代の新しいビジネスとの親和性が高いのもインテリジェントホームの強みだ。「モノやサービスを共有するシェアリングビジネスの代表格、民泊事業者向けのソリューションも提供しています。Connected Portal(鍵管理システム)により管理者側が現地に行かなくて時限式鍵や時限式暗唱番号を発行でき、宿泊者は管理者から送られてきたメールで鍵を開けることができます。解錠した様子をカメラが撮影し、その写真を管理者に送信することで解錠者の特定や同行者の人数の把握が可能です」
同社は新規事業の拡大とともに、お客様満足度の向上にも力を注いでいる。「お客様が加入して本当に良かったと思っていただけるように、サポートの充実に努めています。またイッツコムのサービスエリアにおける対象世帯数は約133万世帯あり、インテリジェントホームといった新たな価値の提供により契約者の拡大につなげていくことも重要なテーマです。街づくりの最小単位である『家』の機能を高めることで、地域の豊かな暮らしの実現、地域社会の発展に貢献していきます」(井手氏)
既存事業の拡大や新規事業の成長を図っていくうえで、増え続けるシステムの運用管理負荷やコストの増大といった課題の解決は不可避となる。
HCI製品の選定ではコスト、Nutanix搭載、サポートを重視
同社におけるICTインフラで最も重要なことは「サービスを止めないこと」である。しかし、サポート終了に伴うストレージの更新時にはサービスを提供できない時間が発生しているという。「IPプラットフォーム部は主にメールサービスやインターネット接続サービスなどの設備やICTインフラを担っています。システム更新時、ストレージは容量が大きいためデータ移行に時間がかかり、切替の際はどうしてもサービスを止めなければならない時があります。また事業の拡大に合わせてハードウェアが増え続ける中、運用管理の負荷増大に加え、システムトラブルのリスクも高まります」と竹岡氏は既存ICTインフラの課題に言及する。課題解決のために同社が着目したのが、HCI(Hyper-Converged Infrastructure)である。
HCIは、サーバーにストレージ機能や仮想化機能などを統合し、シンプルな構成を実現した仮想化基盤だ。「HCIはストレージの仮想化により物理的なコンポーネントを削減することができます。運用負荷の軽減はもとより、必要なリソースが搭載されたサーバーを追加するだけで瞬時に拡張できるため、サービス停止も最小化できるのではないかと期待しています」(竹岡氏)
同社はHCIを初めて導入するためノウハウの蓄積を目的に、お客様に直接関わらない周辺システムにHCIを導入することにした。製品選定で重視したのが、コストパフォーマンスに加え、HCI分野をリードするNutanix社のソフトウェアの搭載だった。「今後HCIの本格導入に向けて、実績があり評価の高いNutanix社のソフトウェアを採用しておきたいということがありました」(菅野氏)
同社はコストパフォーマンス、Nutanix搭載に加え、サポート面も重視し、丸紅情報システムズが提案した「Lenovo Converged HX シリーズ(以下、HXシリーズ)」の採用を決定した。「統合製品のHCIの導入とはどういうものなのか。通常のシステム導入とは何が違うのか。当社の疑問に対し、丸紅情報システムズは実機に触れるハンズオンや、導入企業の声を聞くことができる勉強会の開催など手厚くサポートしてくれました。また、構築時はもとより運用フェーズに入ってからも、丸紅情報システムズとレノボ・エンタープライズ・ソリューションズ株式会社(以下、レノボ社)が一体となったサポートは非常に心強いです」
2017年9月末に採用を決定、同年11月に製品納品後、サポート終了のタイミングで順次システム統合が進められている。HXシリーズをベースとする仮想化基盤は安定稼働を続けており、その導入効果について菅野氏はこう話す。
「今回、最終的に7つのシステムが統合されることで、物理台数の削減により運用管理の負荷軽減を実現できます。またNutanixの無償の仮想化ソフトウェアAHV(Acropolis Hypervisor)を利用することでライセンスコストがかからないため大幅なコスト削減が図れました。無償であっても、管理画面は直感的で使いやすく、Nutanixの機能の1つとしてバージョンアップも行われるため安心して利用することができます。今後、スペース、消費電力、運用管理、コストなどの観点でスケールメリットを活かすべく、HCIの本格活用に向けてHXシリーズはサポートも含めて有力な選択肢の1つになると思います」
チャレンジ、ホスピタリティ、プロフェッショナルの3つの軸を大切に
イッツ・コミュニケーションズの事業は情報社会のインフラを支えるものだ。同社が事業継続するために行っている訓練では、想定外の事象への対応を重要なテーマにしているという。「大地震だけでなくウイルス感染など、毎回新たなテーマが設けられています。その場にならないと、何がテーマなのかわかりません。また訓練は早朝から開始され、最初に出社した人が災害対策本部長となって対策を講じ、より適任者が出社した時点で引き継ぎます。今何をすべきなのかを自らが率先して考え行動することを大切にしています」(菅野氏)
同社が求める人材像について竹岡氏は「チャレンジ、ホスピタリティ、プロフェッショナルの3つを軸で、採用はもとより教育や評価を行っています」と話す。
菅野氏は入社した理由について「システムがどう使われているのかを実感できる、ユーザーに近いところで仕事がしたいというのが志望動機でした。IPプラットフォーム部はユーザーやお客様からの声に直接触れることができます。いろいろな声が聞こえてきますが、すべて明るい声にしていきたいという思いで仕事に向かっています」と話す。
先進技術とお客様を大切に思う心の両輪で、イッツ・コミュニケーションズは暮らしに付加価値を創造するライフスタイル・イノベーションを目指し前進を続ける。