企業におけるDXの推進やIoT活用は、関連技術の革新的な進化とも相まって、業務効率の改善はもちろんのこと、温室効果ガスの削減をはじめとした環境課題へのソリューションとしても、その重要性が増している。
その一方、DXやIoTで対応できるソリューション分野が多様化することに伴い、その効率的・効果的な管理や運用について、解決すべき副次的な課題も顕在化してきている。
たとえば、センサーを利用したスマートビル化を推し進めれば、ムダなエネルギー消費を削減することは可能だが、多種多様なセンサーを一元的に管理することが難しくなるといった課題が発生することも少なくない。
本稿では、そうしたDX推進、IoT活用に伴い発生する障壁をどう解決できるかについて、丸紅ネットワークソリューションズ株式会社のイノベーション開発推進本部 サービス企画部 井手 豊と、同本部 AI×IoTサービス部 市川 達也の両名に話を聞いた。
社会課題とIoT活用などにおける障壁
――企業がDX推進やIoT活用を積極的に進めている背景や、それによって解決可能な社会課題にはどのようものがありますか。
井手 やはり、昨今特に大きな問題になっているのが “人” に関するものです。ひとつは人件費の高騰であり、もうひとつが、日本の少子高齢化を背景とした人材不足という問題です。新しい働き手の確保がどんどん難しくなり、その一方で定年によってリタイアしてしまう人材が増えていき、結果的に企業の人材不足が加速していく懸念があります。
さらに、グローバルな環境課題としての温室効果ガスの削減などについても、企業に対して積極的な取り組みが求められています。また、電気料金などのエネルギーコストも高騰する傾向にあり、地球環境への配慮およびコスト削減の必要性からも、企業における省エネルギーへの取り組みが欠かせなくなっています。
こうした社会的、環境的な背景もあり、企業のDX推進、IoT活用の必要性が増しています。さらにいえば、昨今IoTに関する技術革新が進んでおり、各種センサーが高機能化、低価格化していく中で、これまでできなかったような業務課題の解決が可能になり、積極的に導入を検討する企業が増加しています。
たとえば、漏水センサーなどはかなり進化して使い勝手がよくなっています。ホテルやオフィスビルなどの施設で水漏れを検知するような漏水センサーは以前からありましたが、従来は長い有線タイプのものを施設内に敷設しておくことで漏水を検知していました。水が漏れていることはわかるのですが、長いセンサーのどの辺りで検知したのかまでは判らず、どこから漏れているのかを特定することが難しい、設置工事費が高額になるという課題がありました。また、こうしたセンサーは電池を使うものもあり、定期的に電池を交換しなくてはならないなど、運用自体も非常に手間でした。しかし近年では、無線で検知情報を送信でき、短い長さのセンサーを、漏水場所を特定したい区間単位で配置できるようになり、かつバッテリーレスで電池交換の運用負担を大幅に軽減した漏水センサーが開発されたことで、非常に効率的・効果的な漏水管理が可能になっています。
市川 実は、こうしたセンサーを活用するにあたっては、バッテリーなどの電源をどうするかというのは、とても大きな問題でした。たとえば、福祉施設や高齢者施設などでは、見守りのための人感センサーなどが有用です。しかし、各部屋にセンサーを設置したとしても、その電池交換のような手間を高齢の居住者にお願いするのがとても難しいという問題がありました。
しかし、最近ではLED発電を利用したセンサーが開発され、10年程度は電池交換なしで利用できるものや、エネルギーハーベスティング技術を活用した電池交換が不要のセンサーもあり、各種センサーの利用シーンが広がっています。
多様なセンサーを活用したIoT運用の障壁と、それを解決するプラットフォームの重要性
――積極的なIoT活用が必要な背景がある一方で、クリアすべき課題や障壁もあるとのことですが、それはどんなことですか。
井手 今お話したように、多種多様なセンサーを活用することで、IoTによる人手不足解消、業務効率改善を検討が可能になります。一方で、そうしたセンサーから得られる情報を管理する、いわゆるIoTプラットフォームが、センサーメーカーごとに異なるケースが多く、ひとつのIoTプラットフォームで、すべてのセンサーを一括で管理できないという障壁がありました。
たとえば、ひとつの施設でA社の人感センサー、B社の漏水センサー、C社の温湿度センサーを利用するという場合には、これら3社のメーカーのプラットフォームが必要でした。そのため、導入時のコストや労力、導入後も運用負担が大きくなり、導入を躊躇させる原因ともなっていました。
仮に複数メーカーのセンサーに対応できるプラットフォームを、フルスクラッチで開発するとなると、一般的にはかなりの開発費になると言われています。また、センサー技術は日進月歩で進化していますから、新しいセンサーが開発されて、それを使いたいとなれば、システムの改修が必要で、さらに高額なコストがかかります。
一方で通信キャリアなどが展開するプラットフォームもありますが、機能が限定的なものも多く、センサー自体の調達やネットワークの準備も含めたワンストップ・サービスになっていないケースも少なからずあり、導入を検討するにあたっては注意が必要です。
また運用においても、センサーの数が増えていくと、それに伴って処理すべきデータが増え、プラットフォームの処理能力不足により、ダッシュボードなど管理画面の操作性が悪化するケースもあるようです。ひどい場合には、ひとつの画面を切り替えるのに10分も待つようなお話もお客様から伺います。
市川 このように、多様なセンサー・デバイスを利用してIoT活用を推進しようとすれば、複数メーカのセンサーをワンストップで管理でき、センサーの数を増やしたり、最新センサーを活用したりという拡張にも対応できるIoTプラットフォームであることが重要になります。
IoTプラットフォーム「MAIDOA plus」の活用事例
――丸紅ネットワークソリューションズが取り扱っている「MAIDOA plus」の、具体的な活用事例をご紹介ください。
井手 ひとつは、先ほども例に挙げた「バッテリーレス無線漏水センサー」を活用した事例です。ホテルの客室で水漏れがあると階下にも影響が出るので、漏水検知の仕組みを追加したいというご相談をいただきました。100個ほどのバッテリーレス型の無線漏水センサーを導入して、「MAIDOA plus」で一元的に管理できるようにしました。お客様のお話によると、別の事業者からの提案は有線の漏水センサーで、長さもあり配線工事がかなり高額だったようです。弊社からの無線タイプの提案の採用により、有線の場合に比べて導入コストはかなり低減できたとのことでした。将来的に客室内の温湿度管理や人感センサーとの連動などにも同じプラットフォームで対応できる点もご評価いただけました。
ふたつ目は、ビルのスマート化に向けて、「MAIDOA plus」をIoTプラットフォームとして、「BEMS(ビルエネルギー管理システム)」と連携させることで、電気代とCO2の削減を実現したいというご相談になります。商業施設はもとより、倉庫、福祉施設、病院などにも導入実績が豊富なBEMSと連携しており、温度センサーを使って、人がいる高さで室温を測定した上で、空調設備をAI技術も活用して的確に遠隔コントロールし、快適な室温を保ちつつ節電につなげることが可能です。電気料金の削減に関しては、通年のピーク電力によって基本料金が設定されてしまうため、いかにこのピークを低く抑えるかが重要です(いわゆるデマンド制御)。その上で、日々の電気使用量を減らすことで、さらに電気料金を削減します。「MAIDOA plus」で各種センサーと「BEMS」を連携させることで省エネを実現します。
他にも、介護施設などでは「LED発電パネル付き人感センサー」を用いて居室内の見守りを行ったり、「LED発電パネル付き温湿度センサー」の情報に基づいて快適な居室空間を維持するご相談も増えてきています。トイレなどの利用状況を人感センサーでモニタリングしておけば、長時間利用がない場合に、職員に通知して、その場に確認に行くといった対応をとることできます。また、製造業のお客様の工場で「無線高温センサー」や「無線マイクロメーター」など測定に関する業務効率化のご相談も増えてきています。
市川 「MAIDOA plus」は、多様なメーカーのさまざまなセンサーを一元的に管理できる点が大きな特長です。また、新しいセンサーを採用する場合でも、大がかりなシステム改修をかけずに追加することができます。さらには、クラウド基盤上でのデータ処理は高速検索機能や負荷に応じて性能を調整するオートスケール機能もあり、センサーの数が増えたからといって、管理画面の操作レスポンスが極端に遅くなるようなこともありません。運用についても、専用のダッシュボードをご要望に合わせてカスタマイズして提供いたします。将来的に新たなセンサー、新たな運用が追加になった際にはダッシュボードのレイアウトの見直しも可能です。将来に渡って長く安心して快適にご利用いただけます。
「MAIDOA plus」導入にあたってのポイントと、丸紅ネットワークソリューションズのサポート
――実際に「MAIDOA plus」を導入しようと思った際の注意ポイントや、具体的なサポートなどについて教えてください。
井手 まずは、ざっくばらんに課題点、お悩み、ご要望を当社メンバーにお伝えいただければと思います。たとえば、「電気代が年々上がって困ってる」、「エアコンは付けてるけど適切な温度設定がわからない」、「対外的にCO2削減の取り組みを説明したい」といった省エネ・環境関連のご要望や、「商業施設内の清掃作業を効率化したい」、「ゴミ箱の収集作業を効率化したい」などの業務効率化、他にも「他社に提案してもらったけど想定外に高かった」といった際の比較目的でのご相談でも問題ございません。
お題をご提示いただければ、どんなセンサーを利用して、どんなデータを活用すべきか、当社が最適なソリューションをご提案します。
特に電気代削減に関しては、電力会社での値上げ傾向も続いており、そうした背景から改めてBEMSに関心をもたれるお客様もいらっしゃいます。こうした場合には、コスト面のメリットがどうなるのか、コストシミュレーションを実施して、事前に導入効果を確認いただくようにしています。
市川 また当社では、単に仕組みをご提供しておわりではなく、その後の運用面をサポートするサービスもご用意しています。弊社内に運用サービス専門の部署もありますので、例えば水耕栽培に用いるセンサーが異常値を検出した際のアラートを元に、お客様に代わって予めご指定いただく空調設備の保守窓口にお電話する、といった運用を承るこも可能です。システムの導入からその後の保守・運用までをワンストップでお任せいただける点は、当社の大きな強みであると自負しています。
将来的には、蓄積したセンサーデータを用いた分析サービスの提供や、当社が持つAIカメラのプラットフォームサービス「TRASCOPE-AI」と、このIoTセンサープラットフォームである「MAIDOA plus」を融合し、映像とセンサーを組み合わせたより複合的な監視システムの実現も予定しています。たとえば、漏水センサーの活用などに関しても、センサーで漏水を検知したら、当該箇所をカメラで撮影し、その映像をクラウド上にアップして、漏水の程度や破損具合を現場に駆け付ける前にある程度把握するということも可能になります。
丸紅ネットワークソリューションズでは、高度な専門性を持つ人材を結集させ、多種多様なソリューションを組み合わせて、お客様の課題解決を伴奏支援できる体制を構築しています。IoT活用、あるいはIoT活用プラットフォームに興味をお持ちであれば、ぜひお気軽にご相談ください。
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