リサイクルとリユースの違いをご存じだろうか?
資源を再利用するリサイクルと違い、使用した商品をそのまま再利用するのがリユースだ。
地球の限りある資源を効率的かつ持続可能な形で利用していく循環型社会。
その実現には、リユースを暮らしやビジネスの中で採り入れていくことが重要なカギとなる。
その昔、リユースの代表格といえば古本屋だったが、ブックオフはそのイメージを一新した。
明るい店内、キレイに陳列されたリユース商品、全国におよそ900店舗を展開し、 地域の身近な存在となっている。
「捨てない人のブックオフ」の企業スローガンのもと、 本以外の商品も扱う総合リユースのリーディングカンパニーとして捨てない社会のインフラをめざす。
ブックオフが創造したビジネスモデルの斬新さと、その魅力に迫るとともに、 携帯電話を活用したお客様サービス向上への取り組みについて取材した。
リユース分野のブレークスルーとなった斬新なビジネスモデル
あなたは、モノを上手く捨てられる人だろうか、それともモノを捨てるのが苦手な人だろうか。様々なアンケート調査で、捨てられないモノとして上位にランクされるのが、男女ともに衣料品や本・雑誌、装飾品である。捨てられない理由は、思い出の品や愛着に続いて、もったいないという声も多い。
そういえば、祖母の口癖でもあった。モノを大事に思う「もったいない」は、循環型社会への関心が高まる中、世界に広く知られる言葉となった。大切なことは、できる限り使い続けること。使用した製品を再資源化するリサイクルの前に、使用された製品をそのまま再利用するリユースを、暮らしやビジネスの中に採り入れていくことが循環型社会の実現には欠かせない。
リユースの国内市場規模は過去10年間で約10倍に成長し、今後も衣料品の牽引により年率5%程度の成長率が見込まれている。飛躍的な成長の背景には、節約志向やエシカル消費(倫理的な消費)などの購買意識の変化に加え、ブックオフが創造した斬新なビジネスモデルが果たした役割も大きい。
従来、リユースの代表格といえば古本屋だった。あくまでイメージだが、暗めの店内に所狭しと本が積み上げられ、目当ての本を探すというよりは、売っている中から選ぶ、新刊はなく昔読み忘れた本に再会しに行く場所―――。
ブックオフはそのイメージを一新した。清潔感のある店内は照明が明るく広々としていて、老若男女を問わず誰もが入りやすい。状態の良い中古本がキレイに陳列され、新刊書を探すようなわくわく感と共にゆったりとした気持ちでお気に入りの本を探すことができる。1990年、神奈川県相模原市の住宅街、35坪のスペースにBOOKOFF1号店がオープンして以来、創業21年でおよそ900店舗のチェーンに成長、BOOKOFFは地域の身近な存在となった。
「本のブックオフ」から「リユースのブックオフグループ」へ
ブックオフの斬新さの本質は、属人的な目利き能力に依存しないビジネススタイルにある。「店舗では、本を買い取る際、査定判断の基準となるのは本の状態です。アルバイトのスタッフでも短時間のトレーニングで買取業務ができるように、本の状態に関してランク付けを行っており、目利き能力は必要としません。販売価格も定価の半額か105円で販売することが基本となっています。時間の経過とともに価格を段階的に下げていくシナリオもあります」と、ブックオフコーポレーション セールスITソリューション部 展開グループ長 成田昌義氏は語る。
目利き能力に依存しないことでチェーン展開が可能となり、どの店舗でも均一の買取サービスを実現できるようになった。買い取った本は、ベルトコンベアのような仕組みでキレイに加工して店内へと、速やかに陳列されていく。人気作家や作品だけを買い取ったり、特定のジャンルにこだわったりせず、状態で判断するので、幅広い本が集まりやすいのも特長だ。「ブックオフだから見つかったという声や、105円でこういう本を購入できたという話は、ブログなどでもよく目にします。店舗によって本の種類の地域性も出てきますね。住宅街だと子育てや料理の本、学生街だと参考書やコミックなどが多かったりします」
リアル店舗だけでなく、2007年8月にオープンしたブックオフの公式通販・買取ウェブサイト、ブックオフオンラインも急成長している。2011年3月期はEC売上25億円、経常利益2千万円と2期連続黒字を達成。宅本便(自宅に居ながら本やソフトを売ることができるサービス)により、倉庫には一日600件、約1,500箱のダンボールに入った商品が届くという。コミックなどを全巻揃えて購入できる「オトナ買い」など、オンラインの特長を活かしたサービスも多彩だ。2011年2月には、モバイルサイトもオープンし、会員数は120万人、現在も増え続けている。
ブックオフオンラインでは単品管理を行い、マーケットを意識した価格設定を実施している。その場で手に取って内容を確認し、購入できるリアル店舗と、ほしい本をほしいときに入手できるバーチャル店舗と、それぞれの良さを活かしているのもブックオフの特長といえるだろう。
2009年、ブックオフは「本のブックオフ」から「リユースのブックオフグループ」へと大きく舵を切った。捨てない社会のインフラをめざし、「もう必要ないけれど捨てるのはもったいない」という人々の気持ちに応えていくことを企業のビジョンとした。「捨てない人のブックオフ」というスローガンには、同社の思いと決意が込められている。
新生ブックオフを象徴する総合リユースショップ「BOOKOFF SUPER BAZAAR」のリユース商品は、本やCD、ゲームから、衣料品、スポーツ用品、貴金属までバラエティ豊かだ。明るい店内や、商品の状態によるシンプルな買取など、ここでも本のリユース分野で培ったビジネスモデルが真価を発揮している。「本を買います」ではなく「本をお売りください」といった、企業スローガンに込められた、ブックオフの企業姿勢も変らない。商品を売ってくれる人がいて成り立つのがリユースビジネスだからだ。BOOKOFF SUPER BAZAARで初めて商品を売ったという人も多く、週末には買取の受付に家族連れの行列ができるという。BOOKOFF SUPER BAZAARは、関東・中京圏を中心に20店舗(2011年10月現在)を展開、今後、全国へと拡大していく計画だ。
携帯電話を活用したモバイルサービスで来店促進、お客様サービスを向上
ブックオフのビジネス活動を支えている同社の情報システム部門には、ICTインフラを担当するIT統括部と、店舗のシステムを担当するセールスITソリューション部がある。近年、セールスITソリューション部では2つの大きなテーマを抱えていた。1つが、次世代レジシステムの導入。2011年9月に直営店への導入が完了した。今後、順次加盟店にも展開していく。もう1つが、既存のカードによるポイントサービスの刷新。2010年2月にプロジェクトがスタートした。「オリジナルカードも含めて様々な案について検討を重ねましたが、コスト面や時代のトレンドなども考えて、携帯電話を活用したモバイルサービスでいこうという結論になりました」
特に、携帯電話を活用したクーポンに強い関心を持ったと成田氏は振り返る。店舗への誘導に高い効果が期待できることに加え、1月に1回以上ブックオフに買取や購入のために来店するヘビーユーザへのサービス強化も図れる。ヘビーユーザは20代、30代が多く、スマートフォンなどの携帯電話を自由に使って楽しむことのできる世代だ。購買層の20%に過ぎないとはいえ、ブックオフの売上の60%を占めるヘビーユーザに対するサービス強化は、収益の安定化のためにも必要だった。
モバイルサービスの導入に向けて、まず気になったのは登録手続きの煩雑さだ。携帯電話の小さな画面で行う登録は利用者への負担が大きい。入会時のハードルをできるだけ低くするために、専用端末に携帯電話をタッチして簡単に入会手続きが行えるFeliCa(フェリカ)対応の仕組みを検討。複数製品の中から丸紅情報システムズのラピナビ・ライト(RapiNAVI Light)を選択した。
「店舗の販売カウンターにはクレジット端末や販促ツールなどが置かれています。スリムで設置しやすく、デザインもスッキリしている点が良かったですね。社内の経営陣には、携帯電話をタッチして上手く操作が完了したときに、製品本体がピカッと光ったり、ピッと音が鳴ったりと、わかりやすさも好評でした」
スタンプ10個で1日使い放題の10%OFFクーポンに交換
2010年9月に新しいモバイルサービス「BOOKOFF タッチでおトクなメンバーズ」がスタートした。商品の購入や買取の回数に応じてスタンプが貯まり、スタンプ10個で何度でも何店舗でも1日使い放題の10%OFFクーポンに交換できる。普段、近所のBOOKOFFでスタンプを貯めて、週末にBOOKOFF SUPER BAZAARで1日使い放題の10%OFFクーポンをフルに活用するなど、工夫次第ではさらにお得なショッピングが楽しめる。また各店舗独自の会員限定クーポンの配信も魅力だ。
サービス開始当初は、ラピナビ・ライトに携帯電話をタッチするだけでスタンプが貯まると勘違いする来店客も多かったため、すぐにPOP広告を造り直すなどの対策を実施。サイトにアクセスしてスタンプをゲットする仕組みをわかりやすく周知することで利用者のとまどいも解消できたという。
現在、モバイルサービスの登録者数は約107万人、当面の目標は200万人。サービスの開始前と比べ、来店客数も上昇傾向にあるなど、導入効果の検証も行われている。今後について「スマートフォン向けのアプリケーションを提供することを検討しています。また、レジと連動して購買明細などの情報を収集し活用することもこれからのテーマです。ダイレクトマーケティングや販売促進の面だけでなく、本離れが進む中、本を読むきっかけづくりにも情報を役立てていきたいと思います」と成田氏は語る。
ブックオフの経営理念は、「事業活動を通じての社会への貢献」と「全従業員の物心両面の幸福の追求」だ。東日本大震災では、本を売ることで寄付ができる仕組みを提供した「売って支援プログラム」などを行った。また、社員やスタッフが財産という企業姿勢は社風にも表れている。「新入社員には育成担当者となる店長がマンツーマンでサポートします。常に自分の成長を考えてくれる人がいる。この関係が人を大切にする社風につながっているのだと思います。私にも育ての親と呼べる先輩がいます。印象に残っている言葉は『まわりの人間のことを考えてから自分がどう動くかを意識しよう。』当時の経験はいまの仕事でも役立っています」
取材の前にブックオフの店舗で撮影が行われた。ふと棚に目をやると、気になるタイトルの本があった。取材が終わったら、この本に会いに来よう。