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画像データのエッジ解析に特化した小型で低価格の「AIチップ」が新たなビジネスを創出する

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AI活用でエッジデバイスの付加価値が高まる

昨今、ドライブレコーダーやネットワークカメラなどのIoT(Internet of Things:モノのインターネット)、エッジデバイスを利用した新サービスが拡がっています。ある損害保険会社では、ネットワーク対応ドライブレコーダーを活用し、前を走る車との車間距離が近づき過ぎると車内に警告音を発するなど、ドライバーの安全運転を支援すると共に、利用者の保険料率を下げるようなサービスを提供。こうした事例が、徐々に増えつつあります。

ドライブレコーダーにAI(人工知能)を組み合わせることで、さらに付加価値の高いサービス提供も可能でしょう。ドライバーが運転中に眠そうな表情をした場合、警告音を発して休憩を促すといったサービスも考えられます。このサービスでは、まずドライブレコーダーのカメラが撮影するドライバーの目の動きの変化から、AIが「居眠り」を推論、予測する学習モデルが欠かせません。

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その推論、予測のAI解析を行うには、技術的に2つの方法があります。1つはドライバーの顔の画像データをクラウドに送り、そこで推論する方法。もう1つは画像データをエッジで推論し、結果だけ通知する方法です。AI解析においてクラウドとエッジのどちらが適しているかは、アプリケーションに応じて適材適所に選択する必要があります。

ただ、ドライブレコーダーの画像データをAIで解析する場合は、エッジに軍配が上がります。クラウドで解析する場合、ネットワークの遅延などでリアルタイムの画像解析が難しく、警告音が遅れることも考えられます。一方エッジ側では、ほぼリアルタイムのAI解析が行えますし、AIが画像データから「居眠り」と推論すれば、直ちに警告音を発して事故を未然に防げます。また、エッジ側で処理してしまえば、画像データのセキュリティ確保(プライバシー保護)にも効果的です。

わずか6㎜角でエッジAI解析の課題を解決する

とはいえ、画像データをエッジでAI解析するには様々な課題を乗り越えなければなりません。AI解析に適した汎用GPU(画像処理半導体)もありますが、高価なことに加え、消費電力が大きく、発熱を抑えるための冷却ファンなどが必要になります。ドライブレコーダーやネットワークカメラなど、小型のエッジデバイスに搭載するのは難しいのが実情ですし、民生機器の性格上、ファンで大きな音をたてたり、熱が上がりすぎるのはご法度です。

こうした課題を解決するのが、米Gyrfalcon Technology社のAIチップ「Lightspeeurシリーズ」。エッジデバイスで画像データのAI解析(画像分類、物体検出)する際のCNN(Convolution Neural Network:畳み込みニューラルネットワーク)処理のうち、特徴を見つける畳み込み部分と、特徴を整理するプーリング部分の処理に特化した専用AIチップで、それぞれの特徴をまとめる全結合部分は、CPU(中央演算処理装置)を用いて分散処理する仕組みです。加えて、チップの内部構造を2次元に配列し、処理ブロックのそれぞれにメモリを備える同社の技術によって、CNNの高速演算処理と低消費電力化を実現しています。

Lightspeeurシリーズの「SPR5801」のサイズは、わずか6mm角で、高速、低消費電力、低発熱、低価格を実現し、従来のエッジAI解析の課題を解決します。AIチップに加え、AI学習モデルの開発、動作に必要なソフトウェアの「学習モデル開発キット」も用意しており、主要AIプラットフォームのAIモデル形式をGyrfalcon専用フォーマットに変換してAI学習モデルの作成が可能です。AIチップとソフトウェアを用い、ドライブレコーダーなど小型IoTデバイスやモバイル機器に適したソリューションを提供できます。

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エンジニアとチームを組んで新ビジネスを生み出す

このAIチップは小型、低消費電力、低コストといった特長を活かし、画像データのリアルタイムAIエッジ解析が要求される分野への適用が見込まれています。ドライブレコーダーやネットワークカメラ、自動車、ドローン、掃除ロボット、自販機などのほか、スーパーの買い物かごにAIチップを搭載した小型カメラを取り付けることも可能です。スマホのアプリに表示されるレシピと連動し、必要な食材をAIが解析して消費者に購入を促すといった使い方も考えられるでしょう。ペット型ロボットがご主人とその他の人とを見分けて甘えるなんて、かわいいでしょうね。

現在、AIチップに大きな関心を寄せているのがドライブレコーダーなどのメーカーです。Lightspeeurシリーズを搭載することで、付加価値の高い製品やサービスの提供が可能になると期待しています。既にドライバーの表情から「居眠り」を検知して、警告を発する製品や、車線を検知しジグザグ走行に警告する製品もあるようです。AIチップの特長は、柔軟にAI学習モデルをプログラムできること。例えば、居眠り検知のほか、レンタカーの禁煙車でドライバーが喫煙した場合や携帯電話を利用しようとした場合に、警告を発するといったプログラムの開発も可能です。

CNN技術は画像処理技術に利用されるのが一般的ですが、音声(音響)処理、言語処理に加え、これまでRNN(Recurrent Neural Network:回帰型ニューラルネットワーク)技術が利用されてきた回帰分析処理にも応用が見込まれていることから、Gyrfalcon社のAIチップの応用範囲が拡がる可能性も秘めています。AIチップというハードウェアの可能性をAI学習モデルや、アプリケーションソフトウェアがさらに高める組み合わせです。

我々がGyrfalcon社のAIチップを取り扱う上でのアドバンテージは、長年培ってきた半導体の知見に加え、社内のAIエンジニアの技術力を活かしながら企業へ最適なソリューションを提案できる点。そこで、AIチップ単体の販売ではなく、AI学習モデルの開発に必要なMDK(Model Development Kit)、SDK(Software Development Kit)といったソフトウェアのライセンス販売と合わせてAIチップを提供します。ソフトウェアのサポートは、技術本部と営業を融合したチームで対応します。さらに、分散データ可視化ツールやエッジ管理サービスなどを組み合わせた有機的、複合的なサービスの展開や、AI学習モデルのマーケットプレイスの創出など、AIチップをトリガーにAIの新ビジネスを加速していきたいと考えています。

徳永克也
丸紅情報システムズ 事業部門統括役員補佐
※所属・職名等は記事公開当時のものです。
ネットワークカメラなどのエッジデバイスの利用拡大とともに、AIを活用して画像データを解析する小型で、低コスト、低消費電力のAIエッジコンピューティングのニーズが高まっています。そのソリューションとして注目されるのが、米Gyrfalcon Technology社のAIチップおよびAI学習モデル用ソフトウェア。従来のAIエッジデバイスとの違いや、新たなビジネスへの展望について、事業部門統括役員補佐の徳永克也が語りました。
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