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製造業で活用が進むXRとは?AR、VR、MRの違いや事例について解説

AR(拡張現実)やVR(仮想現実)、MR(複合現実)、SR(代替現実)などのデジタル技術は、仮想世界をあたかも現実世界のように体験する、いわば仮想世界と現実世界を併合的に表現・体験するために進歩しています。現在では、これらを総称してXR(クロスリアリティ)と呼んでいます。製造業においては、さまざまな現実化技術を活用することで、モノの開発期間の短縮や、開発コストの削減を実現できるようになっており、注目が高まっています。

本稿では、XRについての概要や、製造業分野での導入事例、さらにはこれから導入するにあたっての注意点などについて解説します。

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製造業におけるXR技術の活用
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XR(クロスリアリティ)とは?

XR(クロスリアリティ)とは、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)、MR(複合現実)などの総称です。XRの“X”は、さまざまな文字が入ることを象徴したXです。つまり、XRとは、VRもARもMRも、すべて含む概念ということになります。最近ではSR(代替現実)と呼ばれる技術も登場しており、今後、より高度なデジタル技術が開発される可能性もあります。

XRの歴史

コンピュータによって創り出された仮想的な世界を、あたかも現実世界であるかのように知覚したり、その中で何らかの疑似体験ができたりする仕組み自体は比較的古くからありました。

考え方だけでいえば、1935年に発表された小説の中でゴーグル型のVRシステムが登場したのが最初だといわれています。また実際にVR体験装置が開発されたのは1962年だといわれています。

その後、1980年代から90年代にかけて、エンターテインメントの世界で注目されましたが、コンピュータの処理能力などの問題もあり、それほど普及するには至りませんでした。しかし、2010年代以降になると、コンピュータの処理能力の向上やネットワーク通信環境が高速化・大容量化したことを背景に、VRをはじめとするXRが再び注目されるようになり、現在では幅広い分野での利活用が進んでいます。

XR技術の製造業への広がり

現在、IoTやDXが産業分野で積極的に導入される動きと相まって、産業界での利活用が進んでいます。特に製造業では、様々なメリットをもたらす技術としてXRが注目され、その導入も進んでいます。

現在、ARやVR、MRなどのXRは、2次元データと3次元データの両方を扱い、1つの仮想空間の中で、2次元データで表現されたデータと3次元データで表現されたデータが一緒に表示されるものもあります。

2次元データは、どんなに精密に描いても2次元なので、裏側も奥行きもありません。一方の3次元データ、たとえば3D CADのデータで作成されたオブジェクトなら、裏側の形状も奥行きの情報もあるので、そのオブジェクトを動かして、裏側を見たりすることが可能になります。3次元データで作られた仮想空間内に、3D CADのデータで作成されたオブジェクトを配置すれば、よりリアルな空間を作り出すことができます。

また、仮想空間を複数のユーザーで共有できれば、あるひとつの3Dデータで作成されたオブジェクトを、ユーザーAは正面から観察し、ユーザーBは同時性をもって後ろから観察して、お互いが見ているものについてコミュニケーションをとるということが可能になります。もちろん、その仮想空間内にある3Dのオブジェクトを、参加しているユーザーが自由に動かしたりすることも可能になります。こうした点がXRの大きな特徴といえるでしょう。

AR、VR、MRとは

AR、VR、MRについてそれぞれ簡単に説明します。

ARとは

ARとは、「Augmented Reality」の略で、日本語では「拡張現実」と訳されます。ARは、現実空間の中の一部に、仮想的なデジタル情報を付加して、仮想空間を作り出します。

たとえば、スマートフォンのカメラ機能で現実空間を写し撮りながら、そこにCGで作成したキャラクターなどを重ね合わせて表示し、あたかも現実空間にそのキャラクターがいるかのような映像体験ができます。ただし、その空間に入り込んでいるという感覚、いわゆる没入感はあまり感じられないのが特徴です。

VRとは

VRとは、「Virtual Reality」の略で、日本語では「仮想現実」と訳されます。ARが現実空間の中に、部分的なデジタル情報を付加することで、現実空間を拡張しているのに対して、VRは完全な仮想空間を作り出すものです。完全な空間であるため、没入感は高まります。

MRとは

MRとは、「Mixed Reality」の略で、日本語では「複合現実」と訳されます。現実空間の中に仮想的なデジタル情報を付加するという点ではARと似ていますが、仮想的な情報の割合がARよりも大きくなることが特徴です。また、現実世界のものと仮想世界のものが互いに影響しあうため、ARに比べて現実世界と仮想世界がより一体的に表現されます。現実世界がきちんと認識できる状態でありながらも、一定の没入感を得ることができます。

ただし、ARとMRの線引きにはあいまいな点があり、技術者によっても定義に違いがあるという点には注意が必要です。しかし大切なのは、言葉の定義ではなく、多様なXR技術をいかに効果的に活用するかという点にあります。

製造業にXRを導入するメリット

物理的には存在しないオブジェクトを、あたかも存在するかのように表現できるXRによって、モノづくりの現場では、さまざまなメリットがあります。代表的なメリットをいくつかご紹介します。

現物による試作が不要

製造業における製品開発などでは、コンセプトやアイデアを具体化するために試作品をその都度作成しており、その製作量に課題意識がありました。試作品を作って不具合が発見されれば、それを改善するために設計を修正し、また試作品を作り、さらに不具合を確認して修正するというプロセスを経ます。

しかし、3D CADのデータがあれば、XRを活用することによって、仮想空間内で試作品を作り上げることが可能になります。この試作品はあくまでもバーチャルな試作品のため、物理的な原材料は使っておらず、実際の製造機械なども使用していません。したがって、開発にかかる費用を大きく削減でき、開発期間も大幅に短縮できます。試作品は多くの場合、最終的に廃棄されるので資源やエネルギーの無駄遣いとなりがちですが、仮想空間上で試作が繰り返されても、資源の浪費や製作のためのエネルギー消費は抑えられるので、環境負荷の軽減にもつながります。

製品のみならず、治具などを含む生産工程全体の検討が可能

製品そのものの設計を検討すると同時に、その製品を実際に生産するプロセスの中で必要となる治具や各種の設備などについても、XRを活用することで、現物を用いることなく、詳細な検討が可能になります。これにより、使い勝手の悪い治具や設備を用意する必要がなくなり、場合によっては大幅な工期短縮をすることができます。

エルゴノミクス(人間工学)に配慮した生産工程そのものの効率化が可能

開発した製品そのものの検証だけでなく、組み立てなど生産工程の検証により、エルゴノミクス(人間工学)に配慮した生産ラインの設計や見直しが可能になります。3D CADで作成された製品を、実際の工場内で移動させてみて、動線に無理がないか確認することができ、そもそも人間の作業動作が過酷な姿勢を強いるものになっていないかどうかなどを、仮想空間の中で検証できます。

物理的な場所に制限されない情報共有が可能

昨今では、インターネット環境や、高速通信網が発展したことで、リモートワークはほぼ支障なく実施できるようになっています。しかし、製品開発などの現場では、単に遠隔地間でコミュニケーションがとれるというだけでは不十分です。遠隔地同士での円滑なコミュニケーションはもとより、試作品や工場(作業場)といった、オブジェクトや空間も共有できることで、開発プロジェクト自体が円滑に進行できるということがあります。

これを実現するのもXRです。遠隔地にいる複数の開発関係者が、仮想空間内に集い、3D CADのデータに基づいて作成された開発品を見たり動かしたりしながら、意見交換をすることが可能になります。

人が出張することもなく共同作業ができるため、移動コストを削減し時間を有効活用できるという点でも大きなメリットといえます。また、当該バーチャル会議に、承認系統の関係者や、サプライチェーンの関係者にも出席してもらうことで、意思決定がスピーディになり、承認手続きを簡略化できるなど開発期間の短縮にも貢献することができます。

移動が困難(大きさ・重さの制限)な検証対象の取り扱い

発電用タービンやジェットエンジンの開発など、対象となるものが大きなものであったり、取り扱いに危険が伴うようなものも、仮想空間内で、デジタルデータで作成されたオブジェクトであれば、安全に扱うことが可能になるというメリットもあります。

生産ラインの構築においては、3Dデータ上で十分に検証を行ったうえで着工することが多いですが、実際に生産を始めてみたら、予想外の現実空間上の課題が発見され、寸法調整や回避策を検討することがしばしば発生することがあります。このような事象においても、XRを活用すれば多くの工数と費用を解消することが可能です。

実物が存在しない環境での作業実習

技能伝承や業務指導、教育訓練にも活用されれば、そのメリットはさらに大きくなります。たとえば、出張が削減できれば労働時間の短縮につながり、働き方改革を推進することにもなります。

作業で使用する機械などの3Dモデルを活用すれば、実機が目の前にあるかのような臨場感で作業訓練や実習を行うことができます。

製造業におけるXR製品(ハードウェア・ソフトウェア)の選び方

XRは製造業においてはさまざまなメリットがありますが、実際に導入する際には注意すべきポイントもあります。

XR製品(ハードウェア・ソフトウェア)の選び方

ハードウェアの選び方

XRでは、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)などのデバイスが必要となります。ただし、現実空間を一切表示することなく、仮想空間だけを映し出すHMDでは、実際の工場での利用は難しいといえます。工場などでは、周辺環境を正しく把握できないと事故につながりかねません。

そのため、HMDについては、Microsoft社のHoloLens 2などの現実空間をシースルーできるデバイスや、Meta社のQuest 2/Pro/3のようにMRとしてパススルー機能を備えたデバイスを使用すべきです。パススルー機能とは、HMDを装着したままで、周辺の現実空間を見ることができる機能です。HMDに取り付けられたカメラなどを使って周辺の様子をディスプレイ上に表示します。

パススルー機能を備えたHMDを使用すれば、仮想空間としてのオブジェクトなどを関係者と共有しながら、現実空間も視認できるため、作業中の危険性を大幅に軽減することができます。

ソフトウェアの選び方

XRを効果的かつ効率的に活用するためには、ソフトウェア選びも重要です。製造現場で使われるXRの場合、HMDで、現実の周辺環境と、その上に配置されたデジタル情報、たとえば開発途上にある新型車の3D CADモデルを見ながら、関係者とディスカッションするという使い方をします。

HMDは人間の頭部に装着して使用するため重量の制約があります。特に長時間利用はバッテリー性能に依存するところも多く、容量が大きければ重量も重くなるという課題があります。さらに、高解像度を必要とするデータを軽快に取り扱うためには、高性能なグラフィックユニットを搭載する必要があり、HMDの中にはこの処理をするために有線で外部ユニット化しているものもあります。この場合、有線ケーブルは作業者に行動制限を強いることになり得ます。これでは、リアルタイムにリモートでつながっているにもかかわらず、円滑にコミュニケーションをとることができません。

そこで、ソフトウェアを選ぶにあたっては、HMD側の画像処理に負荷をかけないものを選ぶことが重要となります。

たとえば、映像処理にストリーミング技術を利用しているソフトウェアであれば、HMD側で重い画像データを処理する必要がなくなるため、ユーザーの動きや操作への反応が良く、ストレスのない利用が可能になります。このように、XRを製造現場に導入するにあたっては、ハードウェア・ソフトウェアとも、利用目的に適したものを選ぶことが求められます。

製造業で活用されているXR技術の事例

近年、ドイツの自動車メーカーBMW社が自動車開発にXRを導入し、大きな成果を上げています。

現行車のモデルに、新型のエンジンを組み入れる際の課題や問題点を検証する作業に、多くのコストや開発期間がかかっていたため、XRを活用してコストや工数の削減を目指しました。現行車は実物が用意され、そこに、3D CADに基づいて作成されたバーチャルなエンジンを組み込んで、不具合などを確認、検証するようにしました。

これによりBMW社では、これまでは12カ月程度が標準的だといわれていた開発工程を大幅に短縮できました。また、早期にエラーを特定し、その回避のための取り組みを迅速化することにも成功し、試作コスト自体を大幅に削減することに成功しています。

このBMW社の事例で導入されたXR技術が、丸紅情報システムズの提供する「Hololight Space」になります。

XR エンジニアリング・ワークスペース「Hololight Space」

Hololight Space」とは、XR (AR/VR/MR)デバイスを用いて、3D CADモデルの設計検討・デザインレビュー・組立検証などを、仮想空間内で複数の関係者がリモート協業するためのソフトウェアです。

XR導入の主要メリットである「実物の試作品不要」「工程の前倒し」「エルゴノミクスに配慮した作業検証」などをワンストップで実現することが可能です。もちろん、遠隔地にいる関係者ともバーチャル空間で円滑にコミュニケーションをとることができるので、意思決定も迅速になります。

操作性に関しても、Hololight Spaceなら、仮想空間に投影されているコンテンツなどを直感的に操作できるというメリットがあります。多くのXRではコントローラーなどを使用して操作しますが、Hololight Spaceの場合、自分自身の手の動きでコントロールすることが可能です。このことは、Hololight Space自体の操作性もさることながら、作業場での実作業についても実際の動作を検証できるため、エルゴノミクスに基づいた作業動作の設計をも可能にします。

さらに、Hololight Spaceでは、ストリーミング技術を使って映像を処理しているため、HMDに負荷がかからず、円滑な動作が可能になっています。また、このことにより、データのセキュリティ性も向上します。大切な3D CADデータそのものは、自社内のサーバーに置いたままで、Hololight Spaceを通じてHMDに投影される映像は、3Dオブジェクトという見た目の情報だけです。重要な設計データをやりとりすることがないので、セキュアな環境下で、XRを活用できます。

現在、産業分野でのXR活用が注目されていますが、特に製造業においてはメリットが多く、1日でも早い導入が競争力の源泉になり得るといっても過言ではありません。XRの導入を検討の方は、ぜひ丸紅情報システムズにご相談ください。

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