画像計測とは
画像計測(Image Measurement)とは、画像処理技術を使用して、対象物や領域の寸法、形状、特性などを計測する方法です。画像計測は、製造業の品質管理、自動運転車のセンシング、医療画像診断など、さまざまな分野で使用され、自動化や精度向上およびデータ解析の目的で重要な役割を果たしています。
画像計測のプロセス
画像計測のプロセスは、一般的に以下の4つのステップで行われます。
1.画像取得・前処理
まず、対象物や領域の画像をデジタルカメラやセンサーなどを用いて取得します。次に、取得した画像のノイズを減らし、被写体を強調するため前処理を行います。これには画像の補正、フィルタリング、境界検出などの工程が含まれます。
2.特徴の抽出
画像内の特徴を、画素の輝度の勾配や色の情報などを用いて抽出します。対象となる情報の種類は、エッジ、コーナー、テクスチャ、または物体の輪郭に加え、投影光や物体表面のパターンなどが含まれます。
3.キャリブレーション
画像内の寸法を物理的な寸法に関連付けるために、カメラを用いたキャリブレーションが行われることがあります。これにより、画像上の画素(ピクセル)と実世界の寸法とのつながりが確立されます。
4.計測・データ解析
画像内の対象物の寸法や特性を計測します。これには、画像上の距離、面積、角度、形状など様々な要素の計測を行います。
最後に計測されたデータを解析し、必要な情報を取得します。この情報は、品質管理、品種判別、医療診断、地理情報システム(GIS)など、さまざまな応用分野で利用されます。
画像計測の種類
画像計測にはさまざまな種類と方法がありますが、本稿では「二次元画像計測」と「三次元画像計測」の観点に分類し、この2つについて解説します。
二次元画像計測の特徴
二次元画像計測の多くは平面上の情報に着目し、主に静止画像を対象とします。一般的に、二次元画像計測は迅速で簡単なプロセスですが、得られる情報は限られています。二次元画像計測の主な測定指標について解説します。
平面上の寸法計測
平面上の寸法計測は、二次元画像の寸法を測定するために使用されます。目的は物体の長さ、幅、高さ、面積を測定することです。エッジ検出や輪郭検出の画像処理技術を使用して、物体の寸法と形状を分析します。
角度計測
角度計測は、エッジや物体の輪郭から画像処理によって角度を計測するために使用されます。目的は二次元画像内の部品間や構造同士の角度関係を把握することです。
面積計測
面積計測は、物体や領域の2D面積を計測するために利用されます。たとえば、地図上の領域の面積計測などに活用されています。
ピクセル単位の計測
ピクセル単位の計測は、画像上のピクセル単位での計測の手法です。たとえば、画像内の特定のオブジェクトの画素数を数え、画素数から寸法や面積を求めるといった目的や、各画素の色や輝度とその変化の度合いから輪郭を精度よく算出することなどにも応用され、三次元に拡張されることもあります。
三次元画像計測の特徴
三次元画像計測は、物体や環境の3D構造を計測するもので、動的な情報も取得できます。詳細で多様なデータが得られ、より高度な分析やデータ活用を可能にしますが、同時にデータ量が多くなります。三次元画像計測の主な計測指標について解説します。
写真測量
写真測量は、空間や測定対象をさまざまなアングルから撮影し、そのデジタル画像を解析、統合する手法です。立体的な3D CGモデルの作成・地形や環境の測量・工業製品の3D座標と寸法の計測といった目的に利用されます。
形状計測
形状計測は、物体表面の3D形状や寸法、座標を計測するために利用されます。2Dのエッジ検出や輪郭検出の画像処理技術も拡張して用いられています。製品の3D寸法や座標の検査だけでなく、3D点群データから物体や環境の3Dモデルを生成するためにも応用されています。三次元計測の方式にはさまざまな種類があります。各方式や手法については次の章で詳しく解説します。
動的な計測
動的な計測は、三次元の物体の動きや経時変化を計測するために使用されます。4D(3D+時間)の情報を得ることができ、多くの場合、形状計測に使用される原理が応用されます。たとえば、応力を測定するために、光弾性法や、赤外線カメラを使用した熱弾性効果による測定法などがあります。物体の挙動、変形、応力の3D計測のための代表的な画像ベースの手法には、モーションキャプチャーやデジタル画像相関法(DIC)などがあります。
デジタル画像相関法(DIC)については以下のページで詳しく解説しています。
医療画像の3D計測
医療画像の3D計測は、CTやMRIなどの3D医療画像を解析し、組織や臓器の3D形状や体積を計測するために使用されています。また、CT技術は、鋳造製品の部品内部の欠陥や電子部品のはんだ接合部の検出などの目的で工業分野でも使用されています。
三次元画像計測の方式
三次元画像計測のなかでも、形状計測の方式には大きく「パッシブ方式」と「アクティブ方式」に分類され、その中にもさらに以下のようなさまざまな手法が存在します。代表的な手法について解説します。
パッシブ方式
パッシブ方式とは、受動的な計測方式であり、補助的な光を照射することなくカメラに入る光のみを用いる方式です。パッシブ方式の中には、「レンズ焦点法」と「ステレオ法」があります。それぞれの特徴は以下の通りです。
レンズ焦点法
カメラのフォーカスを用いて、ピントの合う位置の目盛から距離を測る方式です。共焦点法はこの方式に包含され、共焦点顕微鏡などに用いられています。
ステレオ法
二台のカメラを用いた三角測量の原理を用いる方式です。二台のカメラ間の間隔と角度、および画角内のスケールが既知であれば、画像内の形状と寸法が取得できます。
アクティブ方式
アクティブ方式とは、レーザー光やパターン光などを補助的に照射し、これを撮影した画像から計測する方式です。アクティブ方式のなかには、「光レーダー法」、「アクティブステレオ法」、「光干渉法」があります。それぞれの特徴は以下の通りです。
光レーダー法
光レーダー法とは、レーザー光などの反射時間や位相差から測長する方法です。ToFセンサーやLiDARはこの方式に包含されます。
アクティブステレオ法
アクティブステレオ法とは、対象に投影した光のパターンを撮影し、カメラ一台との位置の相対関係から三角測量する方式です。これには複数の方式があり、その一つに「光切断法」という方式があります。これはレーザー等のスリット光を投影しカメラなどで撮影する方法です。
さらに、この手法を応用したスポット光やパターン光を投影しカメラで撮影する方式には、「空間コード化法」「フェーズシフト法」「ランダムパターン投影法」「ヘテロダインフェーズシフト法」などがあります。また、複数の光源の照射を切り替え明度差から計測する「照度差ステレオ法」という方式もあります。精度向上や機能性向上を目的として様々な手法が開発されています。
アクティブステレオ法やステレオ法に関する詳しい内容については、以下の記事で解説しています。
光干渉法
光干渉法とは、干渉縞を観測することで三次元計測する方式です。光源から発した光を2分割し、片方の光を測定対象物に照射してから2つの光を1つに戻すことで干渉縞が発生します。この干渉縞を観測することで計測ができます。デジタルホログラフィ法や白色干渉法といった方式があります。
画像計測の活用について
各方式については前述のように大きく分類できます。しかし、現在では複数の原理にまたがった複合的・横断的な技術を用いた高度な画像計測が数多く運用されています。たとえば、二次元画像計測の画像処理アルゴリズムが三次元画像計測にも応用されていることなどが一例として挙げられます。
目的に応じた最適な手法を選択する参考として、次に画像計測のメリットとデメリットを解説します。
画像計測のメリット
画像計測の代表的な5つのメリットについて解説します。
1.非破壊計測が可能
画像計測は非接触・非破壊の計測方法であるため、計測対象物やサンプルを傷つけることなく精密な計測が可能です。特にゴムや樹脂のように接触によって変形する対象物の計測には、非接触の画像計測が有効です。
2.高精度な計測が可能
高解像度のカメラやセンサーを使用することで、寸法や形状を極めて高い精度で計測することができ、品質管理や設計プロセスの改善に貢献します。
3.リアルタイムモニタリングが可能
画像計測はリアルタイムでデータを取得できるため、生産ラインやプロセスのモニタリングに適しています。たとえば、不具合が検出された場合、自動的に即座にアラートを出すことができるため、即時対応が可能です。
4.自動化の促進
画像計測は、自動化プロセスとの組み合わせが容易であり、製造業やロボティクスにおいて効率向上とコスト削減を実現しやすくなります。また、機械的に自動計測することで、従来の課題であった計測者の違いによる、計測誤差をほとんど考慮せずに結果を得ることができます。
5.様々な分野に応用が可能
画像計測は、医療、製造、農業、環境モニタリングなど、多岐にわたる分野で応用が可能です。アプリケーションに対して柔軟性があるため、さまざまな課題に対応できます。分野ごとの具体的な事例については、後述の章で解説します。
画像計測のデメリット
画像計測の5つのデメリットについて解説します。
1.計算コストが掛かる
高解像度の画像と複雑なアルゴリズムは、より多くの計算資源を必要とするため、コストと処理時間を増加する可能性があります。
2.環境条件の影響を受ける
光の条件や環境の変動が計測精度に影響を与えることがあり、計測環境によっては安定性の確保が難しい場合があります。
3.専門的な知識が必要
画像計測の設定や理解には専門的な知識が必要なため、その導入には適切なトレーニングと技術的なサポートが必要となることがあります。
4.対象物の表面条件がある
画像計測は対象物の表面条件に影響を受けやすく、反射、影、テクスチャの不足などが計測に影響を与える可能性があります。
5.データ量が膨大
高解像度の画像を使用する場合、取得されるデータ量が膨大であり、データ管理や解析に課題が生じることがあります。
画像計測の製造業での活用事例
画像計測は製造業においても活用が広がっています。製造業における一般的な活用事例について解説します。
外観検査
まず、代表的な活用方法として挙げられるのは外観検査です。製造ライン上で製品の外観を画像計測によって詳細に検査します。画像計測のエッジ検出や表面欠陥の検出により、不良品をリアルタイムで検知し排除することで品質向上に寄与しています。製品の外観を画像寸法計測することにより、欠陥や異常をリアルタイムで検知するために活用されています。これにより製品の品質向上と不良品の排除に役立っています。
寸法計測
自動車のエンジン部品や車体の寸法を画像計測で精密に計測するなど、部品の寸法測定にも活用されています。たとえば、製品の組み立て時に正確な寸法のパーツ組み込まれることを確認するために部品の検査工程で活用されています。平面的な寸法検査には二次元画像計測が、エンジン部品などの立体的な対象ならば三次元画像計測が利用されることが多いです。
また、微細な部品や複雑な形状の検査には高い精度が要求されるため、しばしばマイクロスコープが使用されます。たとえば、精密機器や電子部品の製造における検査工程で使用されます。さらに、エンジンの内部や複雑な電子部品の接合部などの不具合の検出にはX線CTスキャンが利用されることがあります。
組み立てラインの効率向上
組み立てラインの効率向上のためにも画像計測が使用されています。たとえば、倉庫内の自動化の検証や、製造ライン上のロボットアームなどの動作範囲の検証に活用されています。
工場内の最適な配置のために、工場全体や大型機械のレイアウトの計測に画像計測が用いられることもあります。
また、製品に必要なラベルの正確な配置と品質は画像計測によって検査されます。具体的な活用の場は、食品包装や自動車組み立てに活用されています。
さらに、製造プロセス全体をカメラやセンサーネットワークを活用してモニタリングします。生産ライン上での問題や異常を早期に検知し、迅速な対応を可能にしています。これにより、生産性向上や品質の確保などを実現しています。
製品設計プロセスの向上
製品の設計段階で三次元画像計測を使用して、製品の形状や寸法、さらに動的挙動に関する詳細な情報を取得します。これにより、製品の最適化や開発・製造プロセスの合理化を可能にします。たとえば、生産技術のグローバル展開、CAE技術と連携したフロントローディングと予測精度向上による開発プロセス全体最適化、試作・試験プロセスの削減にも貢献します。
画像計測の製造業以外の分野での活用事例
画像計測は製造業以外の分野でも活用されています。代表的な分野の活用事例について解説します。
医療分野での活用
医療分野では、X線、CT、MRIの解析などに活用されています。これらの医療画像を使用して、患者の組織や器官の状態を3Dで詳細に計測し病変や異常の検出に役立てられています。臓器の形状や位置に加えて、血流量の分布と併せて解析するなどの応用がされています。
防犯・環境モニタリング分野での活用
防犯環境モニタリング分野では「顔認識と監視」や「空間イメージング」に活用されています。
まず、顔認識と監視ですが、セキュリティカメラや監視システムにおいて、画像計測を使用して不審者の顔を認識し、犯罪の予防や早期発見に役立っています。
続いて空間イメージングの活用では、衛星や地上カメラの画像を解析して、地表や地球全体の状態をモニタリングするために利用されています。計測結果は気象変動の解析、森林管理、都市計画などに活用されています。
農業・地理情報分野での活用
農業・地理情報分野では「作物の生育モニタリング」や「地形の計測とマッピング」に活用されています。
作物の生育モニタリングでは、衛星画像やドローンから得られた画像を使用して、作物の生育状態や収穫可能な時期を推定することなどに利用されています。これにより農業生産性の向上に寄与しています。
地形の計測とマッピングでは、衛星画像や航空写真を用いて、地球表面の地形や地物を計測し、GIS(地理情報システム)に組み込んで地図を作成するために利用されています。さらに時系列データから地殻変動の推定なども行われています。
3Dスキャナや3D DICで画像計測を実践
画像計測は、非接触・非破壊・非浸潤で高精度なリアルタイム自動計測が可能なため、自動運転車のセンシングから医療画像診断、製造業の品質管理まで、幅広い分野で多岐にわたる応用がみられます。二次元から三次元まで、様々な段階で画像計測が進化し、新たな可能性が開かれつつあります。
たとえば最先端の三次元による画像計測では、Carl Zeiss GOM Metrology社の3Dスキャナや3D DICにより、現実世界の高精度な3Dモデルや動的な3D変形挙動がデジタル計測データとして取得できます。
こうした三次元の画像計測によって得られたデジタルデータはリアルの物体や現象をデジタル空間に3Dデータとして反映させることができるため、製造業や建設業といった分野で近年注目されているデジタルツインやモデルベース開発の目的で広く活用されています。
本記事に関連する資料のダウンロード
3Dスキャナ/3D DICシステムの資料がダウンロードいただけます