地球温暖化をはじめ、さまざまな要因によって、昨今はゲリラ豪雨をはじめとする大雨が頻発している。大量の雨水が河川に流れ込むことにより、河川氾濫に至り、甚大な被害をもたらすような事態が後を絶たない。
早期の予測によって周辺住民の避難などを促すためにも、河川の水位検知と氾濫予測は重要性を増している。しかし、従来型の水位検知の仕組みでは十分とはいえず、この分野のDXへの期待が高まっている。
そこで本稿では、AIカメラを活用した防災DXについて、丸紅ネットワークソリューションズ株式会社 AI×IoTサービス部 前田 悠太に話を聞いた。
河川氾濫に対応するための一般的な水位検知の課題とは
――昨今、ゲリラ豪雨などの異常気象の影響による河川氾濫などの発生が問題になっています。河川の増水・氾濫を事前に予測し、被害を少なくするための水位検知にはどのような課題があるのか教えてください。
前田 一般的には、対象河川に水位センサーを設置して、その水位センサーの情報に基づいて氾濫予測する方法と、判定用の看板を河川に設置して、その看板で水位の変化を確認する方法などが採用されています。監視対象となる河川の特定の場所に危険水位と判断すべき高さに看板を設置して、それを監視カメラでモニターするという方法です。
ただし、水位センサーは、対象河川の特定の場所にしか設置できないため、局所的な垂直の水位しか測定できないという点に課題があります。本来ならもっと広域的な水位の情報を収集して氾濫を予測することが必要です。
また判定用の看板については、そもそも設置可能な場所が限られてしまうという課題があります。さらに誤検知が多いという問題があり、また、大雨の際には看板そのものが流されてしまったり、流されないまでも位置がずれてしまい、正しい検知ができないという課題もあります。
比較的細い河川や、水路のようなものであれば、こうした水位検知の方法は有効なこともありますが、大きな河川の場合には、センサーが設置された局所的な部分のみの水位を測定しているだけでは判断を誤る危険性があります。そのため、センサーを設置した場所の水位だけを見るのでなく、より広い範囲で、川面の水位の変化を計測することが、より正確な氾濫予測には有効となります。しかし、大きな河川に大量のセンサーを設置するというのはあまり現実的ではありません。
さらにいえば、状況によっては担当者が現地に出向いて目視で確認しなければならないといった運用体制にしなければならないケースもあります。そうなると人件費コストが発生しますし、何よりも氾濫の危険のある場所に人が出向くこと自体が危険で、できるだけ避けなければなりません。
水位検知の課題を解決する防災DX「TRASCOPE-AI」
――そうした一般的な水位検知が抱える課題を解消し、より適切な氾濫予測をするためには、どのような水位検知をすればよいのでしょうか。
前田 従来からの一般的な水位検知の課題を解消して、より適切に水位検知する方法としては、カメラを使って水面の監視を行うのが有効だと考えています。カメラであれば、水位センサーや判定用看板のような局所的な測定ではなく、カメラの画角内におさまる広い範囲で河川を監視することが可能です。しかも川面を監視できますので、特定の場所を測定する従来の方法と違って誤検知のリスクも軽減でき、より正確な氾濫予測につなげることが可能になります。
――カメラを使って、どのように水位検知し、氾濫予測につなげるのでしょうか。
前田 当社がもつ次世代型映像監視システム「TRASCOPE-AI」が極めて有効なソリューションになると考えています。
「TRASCOPE-AI」は、監視用のIPカメラに、外付けのエッジボックスを接続し、そのIPカメラの映像がエッジボックスに送られます。エッジボックスにはAIが搭載されており、そのAIで画像解析を行い、危険水位なのかどうかを判断します。このAIに使われている推計エンジンは、河川の水面自体を膨大なデータで学習させているため、個々の河川ごとに追加学習するといった手間をかけずに問題なく適切に監視できます。
搭載したAIが、監視対象の河川に対して、カメラの中でバーチャルの判定ラインを設定します。そして、実際の水面がその判定ラインに達すると自動で発報する仕組みになっています。判定ライン自体も、複数本の設定が可能なので、注意ライン、警戒ライン、危険水位ラインなどのレベル分けも可能になります。こうした判定ラインは、あくまでもバーチャルに設定されるものですから、大雨の影響で看板が流されたり、位置がずれるという心配もありません。
「TRASCOPE-AI」は、監視用のIPカメラにつなぐエッジ側の仕組みと、そこで収集されたデータをクラウド側で処理する仕組みがあり、両方のメリットを享受できるところに優位性があります。河川氾濫の水位検知などについては、できるだけスピーディに情報を処理しないと手遅れになってしまいます。そのため、「TRASCOPE-AI」では、カメラにつないだエッジ側で解析処理を行うことで、即時レスポンスを可能にしています。そして、そうしたデータはクラウド側にアップロードされるとともに、判定ラインの設定や変更、発報に関する設定、河川監視映像の確認などは、すべてクラウド経由で遠隔で行うことができます。
「TRASCOPE-AI」の導入事例
――「TRASCOPE-AI」を河川氾濫の水位検知に導入した事例があればご紹介ください。
前田 静岡県内のある自治体様で、「TRASCOPE-AI」を導入いただきました。「TRASCOPE-AI」導入以前は、監視対象となる河川に対して3カ所水位センサーを設置して、かつ、そこを監視カメラでモニターするという方法をとっていました。河川の水位が上がって、水位センサーが反応したところで、監視カメラの映像で状況を確認していたそうです。ただ、暴風・豪雨といった状況下では、カメラの映像だけでは判断が難しく、職員の方が現場に出向いて目視で確認するというやり方だったそうです。
そこで、「TRASCOPE-AI」を導入することになったのですが、非常に円滑な河川の水位検知ができているとご評価いただいています。先日も大雨があり、氾濫ということはありませんでしたが、警戒水位に達したところで、即時に発報が行われたとのことです。水位検知の仕組みを「TRASCOPE-AI」にしたことで、的確な判断ができ、かつ暴風雨の中で現地に出向くという危険も回避できるようになったことが大きなメリットだとご満足いただけています。
なお、「TRASCOPE-AI」を活用し、大型駐車場の混雑緩和を実現させた交通DXの事例については、以下の記事にて紹介しています。併せてご覧いただけますと幸いです。
さらなる防災DXの進化につながる「TRASCOPE-AI」の可能性
――河川氾濫への対応のための水位検知に「TRASCOPE-AI」が有効であることはわかりました。さらに防災DXという視点で、そのほかにどのような活用が考えられますか。
前田 河川氾濫対策以外の防災については、いくつか可能性があります。ひとつは、水門の管理です。水門にもいろいろな目的がありますが、たとえば洪水対策、高潮・津波の河川遡上の防止、河川水量の調整などを目的とした水門の監視等には「TRASCOPE-AI」が有効です。近年は遠隔で水門の開閉ができるシステムもありますので、それと「TRASCOPE-AI」を連携されることで、水面の監視と、水門の開閉制御を一体的に行うといった利用が検討されています。
また、今回ご紹介している「TRASCOPE-AI」の河川水位の検知については、水面の監視であれば、河川に限定されるものでありません。したがって、最近大雨の際などに問題になることの多い、都市部のアンダーパス部分などの監視に活用することも当然可能です。アンダーパス部分が一定の水位に達したら、関係方面に自動で発報し、迅速に通行を遮断するといった防災対応が可能になります。同様に、ため池や用水路などの水位検知にも活用することができます。
なお先ほど、「TRASCOPE-AI」は、エッジ側とクラウド側それぞれに特徴があるというお話をしましたが、クラウド側で外部のデータと連携して、予測の精度をさらに高めていくことも可能と考えています。たとえば、気象庁のもつ気象データと、河川の水位変化や氾濫などに関する「TRASCOPE-AI」のデータを総合的に解析することで、河川氾濫予測の精度を高めることも可能になります。
――防災DX以外での「TRASCOPE-AI」の活用についてもお聞かせください。
前田 「TRASCOPE-AI」自体は、河川の水位監視に特化したソリューションというわけではありません。多様なアルゴリズム、推計エンジンを活用することができるので、さまざまなシーンでの映像監視が可能です。
ひとつは駐車場システムに「TRASCOPE-AI」を組み込むことで、入出庫の渋滞予測をして利用者に通知するといった利用が挙げられます。すでに大型商業施設などでご導入いただいています。このような交通DXとしては、遮断機がおりている状況で踏切内に人がいることを検知して、電車の運転手などの関係者に発報するといった活用事例もあります。
安心・安全対策という意味では、建設現場などでの危険エリアへの作業員の立ち入りを検知してアラートを発報するといったことも可能です。
「TRASCOPE-AI」は、非常に多様な活用が可能です。映像監視に関連したソリューションをお探しでしたら、まずは当社にご相談いただければと思います。
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