3Dスキャナとは?
3Dスキャナとは、立体物を3次元的にスキャンすることで大量の3D座標点を取得し、各座標点を結ぶことで、立体的な3Dデータを取得できる機器です。取得した3DデータはCADファイル形式の一つであるSTLデータとして出力されます。
一般的な寸法測定機には、マイクロメーター、画像測定機、CMMなど多種多様なものがあります。立方体のような単純な形状のモノであれば、こうした測定機でも十分計測ができます。しかし、曲面を含む複雑な形状の工業製品はこれらの測定機では測定に時間がかかるもしくは測定できない箇所が発生します。3Dスキャナを使えば、曲面を含む複雑な形状でも全体形状を短時間で測定できます。
3Dスキャナの用途
近年、3Dスキャナの用途として利用シーンが増えているのが、「品質管理・検査」「リバースエンジニアリング」「3Dスキャナ×3Dプリンター」の3分野です。
品質管理・検査
3Dスキャナを利用することによって、工業製品の全体形状や各所の寸法を測定することができます。3Dスキャナで得られた3Dデータと、CADデータを重ね合わせて比較することで、どの部分の寸法がどの程度違うのか、全領域で確認することができます。差異はカラーマップとして可視化され、各所の寸法差異は数値として算出できます。
3Dスキャナによって得られる検査結果は、数値の羅列ではなくカラーマップによるわかりやすい結果のため、問題箇所を瞬時に把握できます。これにより初品検査において測定時間の短縮及び早期に量産工程に移行できることから、昨今検査領域で3Dスキャナが活用されています。また、量産品の定期検査として、製品の形状保証に活用されるケースも増えています。
リバースエンジニアリング
リバースエンジニアリングとは、既存の製品を分解・解析し、構造や設計・仕様などを明らかにすることです。リバースエンジニアリングにおいては、3Dスキャナを使うことによって、既存製品の形状を詳細に測定し、3Dスキャナで得られたデータからCADデータを作成することができます。現物が手元にありCADデータがない場合、3Dスキャナを使ったリバースエンジニアリングが実施されます。たとえば、競合車の分析や文化財のデータ保存などの用途で活用されます。
また、ある製品を製造するための金型がCADデータ通りに製造できても、その金型を使って製造した製品がCADデータ通りに仕上がらないことがあります。こうした場合に、人の手で金型自体に修正を加えて微調整し、正しい製品ができるようにすることがあります。このような微調整された金型そのものはCADデータがないため複製することが難しかったのですが、3DスキャナでスキャンしCADデータを作成することで、微調整後の金型を複製することができるようになります。
3Dプリンターとの併用
近年、3Dプリンターの利用シーンや、使用可能な素材などが増えています。試作品などの作成に使われることはもちろん、後加工後の量産品としてや治具などにも3Dプリンターが使われています。3Dプリンターを利用するためにはCADデータが必要です。そこでCADデータを得る手段として3Dスキャナが利用されます。
また、3D造形品がCADデータ通りに出来ているのかの確認や、造形結果から3Dプリンターの熱変形を再補正するために3Dスキャナを用いて全体形状データを取得する用途もあります。
3Dスキャナが求められる背景
3Dスキャナのニーズが高まっている背景としては、次の3つの要因があります。
製品デザインの高度化・形状の複雑化
形状がシンプルであれば、寸法の測定は比較的簡単です。しかし、近年は製品デザインが高度化・複雑化し、曲線を多用した洗練されたデザインの製品が増えています。そのため、製品形状が複雑であったとしても、簡便に全体をデータ化できる3Dスキャナの利用シーンが増えてきています。
製造現場におけるDXの進展
近年、日本では多くの企業がDXの取り組みが進み、製造業の分野でもDXが進んでいます。例えば製品開発においては、CAE*を活用することで、性能や機能を事前にシミュレーションし、試作や実験の回数を減らし、コスト削減や納期短縮を図ることができます。こうした場面でも3Dスキャナが活用される余地があります。
*CAE(Computer Aided Engineering)とは製品の製造や作業工程の設計の事前検討を、コンピュータが支援するエンジニアリングの作業です
3Dスキャナで得られた現物のデータをCAEにフィードバックすることで予測精度を向上させ、解析と現実のギャップを縮め、試作回数を削減できます。近年、自動車業界を先頭にバーチャル上で開発を行うモデルベース開発手法が取り入れられている背景から、現物を正確にデータ化できる3DスキャナがDX領域で利用されるシーンが増えています。
少子高齢化による労働人口の減少
日本は少子高齢化の真っただ中にあります。生産年齢人口は今後も減少していくといわれています。そのため、企業は必要な人材を確保することが難しく、システムを活用することによってより高い生産性を構築せざるを得なくなっています。
そこで、3Dスキャナとロボットを組み合わせた自動測定システムを近年各社開発しています。これにより測定領域において省人化を図ることができます。また自動化により作業を標準化でき、技術者のスキルに依存しない組織体制を構築できます。
3Dスキャナの方式と特徴
3Dスキャナの代表的な方式とその特徴について解説します。
カメラ方式
カメラ方式とは、プロジェクターから光を照射し、対象物に縞模様のパターンを投影することで表面形状をスキャンする方式です。各社によって投影パターン(グレーコードやフェーズシフト、ヘテロダインなど)やカメラ台数が異なりますが、高精細なデータ測定と自動化の実現性が高いのが特徴です。
対象物表面の光沢影響を受けやすく、光沢をなくすためにスプレー塗布が必要な場合があります。近年はスプレー厚が薄い3Dスキャナ用スプレーやスプレー跡が消失するスプレーが開発されています。
ハンディ方式
ハンディ方式とは、対象物をなぞるようにレーザーを当てることでスキャンする方式です。機器が軽量で持ち運びに便利なので、場所を限定せずに利用できます。高解像度測定が必要な場合はカメラ方式のほうがおすすめです。
トラッカー方式
トラッカー方式とは、トラッカーがハンディ方式3Dスキャナに貼り付けられたターゲットを追従(トラッキング)することで、ハンディ方式3Dスキャナの位置を測定し、ハンディ方式3Dスキャナから照射されるレーザーを対象物に当てることでスキャンできる方式です。この方式は、大物をスキャンする際に用いられることが多い3Dスキャナです。たとえば、飛行機のボディや大型設備部品など巨大物をスキャンする用途で使われます。
アームタイプ
アームタイプとは、複数の関節をもったアームの先端からレーザーを対象物に当ててスキャンする機器です。プローブによる接触式三次元測定と3Dスキャンを併用できるのが特徴です。自動化はできないので特に対象物のサイズが大きい等長時間使用する場合には作業者に負担がかかります。
3Dスキャナ活用事例(自動車業界)
昨今、自動車業界では電動化を始めとした多種多様な市場ニーズにこたえるために開発期間の短縮が求められています。開発期間を短縮するために、設計、試作、測定評価工程でDXが推進されています。設計では図面から3D CAD設計に移行しています。試作では3Dプリンターの利用が増えています。そして測定評価では3Dスキャナが活用されています。3Dスキャナは全体形状を測定できるので、2D寸法評価から幾何公差の評価に移行できます。これにより図面の寸法表記項目を削減できるので、作図時間と測定時間を削減できます。
最近では寸法表記を減らし、注記に指示無き寸法はCADデータによると記載された図面も出てきています。3DスキャナはCADデータと3Dスキャンデータを比較しカラーマップ表示できるので、この図面にも対応できます。画像測定機やCMM等3Dスキャナ以外の測定機はピンポイントの測定になるため、十分な測定ができず、測定していない箇所で不具合があった場合は見落とす可能性があります。
また、寸法や公差といったPMI(製品製造情報)が入ったCADデータを自動紐づけできる検査ソフトウェアがあります。これによりCADデータと3Dスキャンデータを比較した際に、カラーマップ表示と同時に全ての寸法箇所を自動測定することができます。海外の自動車部品メーカーは自動測定により、従来1週間かかっていた測定時間が1時間になり、さらに図面レスになった事例があります。この事例は設計工程でCADデータにPMIを入れる必要がありますので、設計部隊の協力が必要不可欠です。
丸紅情報システムズの取り扱いラインナップ
丸紅情報システムズでは、カメラ方式、ハンディ式、また表面だけでなく内部の測定ができる計測用CTといった豊富なバリエーションで、3Dスキャナを始めとした測定機を取り扱っています。またカメラ方式3Dスキャナとロボットを組み合わせた自動測定機もラインナップしているため、用途、利用シーンに応じた提案が可能です。
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