AI(Artificial Intelligence=人工知能)とは
AIとは「Artificial Intelligence(人工知能)」の略で、文字通り「人工的な知能・知性」と訳されます。端的に定義づけすると、「人間のように考えることのできる知能(のようなもの)を持ったコンピュータープログラム」といえます。
AIという言葉が世の中に初めて登場したのは、1956年のことです。以降、世界中でAIが研究され、今日まで3度のブームがありました。2000年代に入って、ニューラルネットワークをベースとしたディープラーニング(深層学習)というコンピューター技術の登場など、機械学習が飛躍的に進化したことが引き金となり、第3次のAIブームが到来しました。このブームが現在も続いており、最近話題の生成型AIにまでつながっていきます。
第3次AIブームをけん引している機械学習とは、大量のデータをAIに学習させ、そのデータの特徴や規則性などを抽出するというものです。この機械学習がニューラルネットワークの登場でさらに進化しました。ニューラルネットワークとは、人間の脳内にある神経細胞(ニューロン)を模した数理モデルに基づくアルゴリズムで、これがディープラーニングにつながっていきました。
たとえば、人間は犬と猫を簡単に見分けることができますが、従来のコンピューターが犬と猫を見分けることは非常に困難でした。しかし、AIに犬や猫の画像を多く学習させることで、そこから犬特有の特徴や、猫特有の特徴を発見し、ルールを作り、そのルールを新しい画像に適用することで、人間でも見分けがつきにくいような画像でも、正確に犬と猫を見分けられるようになるのです。
AIをさらに進化させたのが「敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Networks)」です。これはディープラーニングを進化させたもので、2つのAIを競争させることで、より正確なアウトプットを得るというものです。
たとえば、GeneratorというAIが偽札画像を生成するとします。そして、Generatorが生成した偽札画像を、Discriminatorという別のAIに見せ、本物のお札か偽札か判断させます。Generator は偽札を検知すると、より精緻な偽札画像を生成し、それを Discriminatorが解析して本物のお札か偽札かを判断する。このような生成と判定を繰り返すことで、AI自身が物事の特徴や規則性をより高度に把握し、それに基づいて新たなデータを生成していくことになります。このような生成型AIが近年実用化されており、たとえばChatGPTなどは、まさに生成型AIの進化形であり、さらなる高度化が期待されています。
そして、こうしたAIを生産現場に適用することで、企業は、生産ラインの無人化による人件費の削減、製造工程の完全自動化による生産量の増加、より正確な需要予測による購買の最適化、画像解析による工場内の異常検知による安全性の確保、品質検査の自動化による効率化など、さまざまなメリットを享受することができます。品質検査の自動化などは、まさにAI外観検査の活用余地の大きいテーマといえ、近年注目されているスマートファクトリーの実現に向けても、AIの活用は不可欠の要素となります。
AI外観検査とは
生産現場にさまざまなメリットをもたらすことができるAIですが、AI外観検査は、AIによる画像解析・分析の高い精度を活かして、製品の良否判定や不良品除去を行うシステムです。製品自体の傷やヘコミなどの不良のほか、組み立て工程で10本のネジを使用するところ1本足りない、パッケージに印字されたバーコードがかすれているなどの不良があります。外観検査では、こうした不良を検出し取り除くことができます。
AI外観検査が登場する以前は、人間による目視検査、あるいはルールベースに基づく画像診断で行ってきました。人の目による目視検査は、見落としなどのヒューマンエラーのリスクがあり、また大量の外観検査を行うために多くの人員を必要とするため、コストがかかるというデメリットがあります。このような人間による外観検査のデメリットを払拭できる外観検査の方法として活用されるのが、ルールベースに基づく画像診断による外観検査です。
しかし、この外観検査の方法にも課題があります。そもそも画像診断のためのルールベースは人間が作るものですが、細かいルールを設定する必要があるため、かなりの労力を要するというデメリットがあります。また、製品の形状が変われば、ルールベースを書き換える必要があります。さらに、この外観検査方法では、ルールベース以外のことは判断ができないため、ルール外の不良品が増えたり、逆に不良品と判断されるべきものが良品になってしまったりする弊害も生まれます。
こうした点が、ルールベースに基づく外観検査の限界だといわれています。そして、AI外観検査ならこの限界点以上の検査も可能になるケースもあります。
AI外観検査のメリットと3つの課題
まずAI外観検査のメリットをみていきましょう。
AI外観検査のメリット
そもそもAI外観検査とは、AIが得意とする認識・識別・分類・文字などの読み取りといった機能を活用して、外観の不具合を発見するものです。ルールベースに基づく画像診断による外観検査との大きな違い、AI外観検査のメリットは、細かい判断ルールを設定しなくても、AIが「これは良品と比べて違いがある」と判断できる点です。また、学習機能により、学習した違いが良品か不良品かの判断制度が向上することもメリットの一つです。
しかし一方で、製造現場などがAI外観検査の導入を躊躇してしまう要因、すなわち導入を阻害する課題が3つあります。
導入の課題1:判定根拠のブラックボックス化
1つ目は、判定根拠のブラックボックス化です。ルールベースによる画像診断ではルールにないことは判断しないため、たとえば、Aという製品個体が不良品と判断されるのは、ルールベースに規定されている不良品の条件に合致しているからです。これは誰が見ても明らかで説明が容易です。しかし、AI判定の場合、その判定アルゴリズムが開示されないと判定根拠を知ることができず、判定自体がブラックボックス化してしまうという弊害があります。
導入の課題2:AI人材・知見の不足
2つ目としては、AIを導入する側に、AIに関する十分な知見をもった人材が不足しているという点です。活用可能なAIモデルが多様化した現在において、自社にとって最適なAIモデルを選定することにおいても、一定の知見をもったAI人材は不可欠です。
導入の課題3:多品種検査の対応
3つ目の課題となるのが、多品種の生産現場において品種ごとの検査プログラムが必要となり、開発工数が増加し、開発を外部委託する場合にはコストが高くなりやすいという問題があります。また、AIを活用した検査プログラムの開発は、一般的にルールベースの検査プログラム開発よりもコストがかかるため、投資コストがさらに増加する傾向があります。
3つの課題を解決するための画像処理プログラム開発ツールの導入
AI外観検査の導入メリットや有用性は理解されても、前述のような障壁があるために、導入が躊躇されるケースは少なくありません。しかし、画像処理プログラム開発ツールなどを導入することでこれらの課題が解決することがあります。その解決策の一例について解説します。
解決策1:AI × ルールベースで判定根拠を明確に
画像処理プログラム開発ツールにAI判別機能がある場合でも、判別基準をブラックボックス化させないために、AIとルールベースを併用することが効果的です。いったん、AI外観検査によって大きな網で不良可能性のあるものを選別し、その上でルールベースに照らして、不良品かどうかを判別すれば、不良品と判別された理由は、ルールベースから明らかとなります。
解決策2:ノーコード設計対応ツールで簡単にプログラムを構築
ノーコード設計に対応したツールを選定することで、AI を使った画像処理プログラムをノーコードで開発できるため、AIに詳しいプログラマーがいない場合でも簡単に開発・導入が可能です。専用のプログラミング言語を用いた開発とは異なり、ノーコードのシンプルさにより、多品種に渡るプログラム開発が必要な場合でも、社内でプログラム構築を行うことができます。導入後のサポートの有無などを事前確認をしておくことも重要です。
解決策3:事前にモジュールが用意されているツールを選定する
外観検査用の画像処理プログラムを開発するためのモジュールが用意されているツールを選定することで、開発工数の削減を実現できます。開発だけでなく、すでにプログラミングで画像処理プログラムを開発している組織のプロトタイプとしても有効的です。
AI導入の補助金について
AIを活用した設備投資やシステム投資には、国から支給される補助金が利用可能です。たとえば、「ものづくり補助金(経済産業省・経済産業局)」があります。この補助金制度は、中小企業などが革新的な製品・サービスの開発や、生産プロセスやサービス提供の改善のための設備投資・システム投資を行う場合に、その投資に対して、最大で1000万円(補助率は3分の2)の補助金を支援するというものです。
これらの補助金をうまく活用することで、投資コストを抑えながら、AI外観検査を導入することが可能になります。
※補助金について記事公開時(2023年6月)の情報のため、活用ご検討の際には「ものづくり補助事業公式ホームページ」より最新情報をご確認ください。