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株式会社セガ様

人気ゲームの世界観を創造 分散処理技術でゲーム開発に“時間”を創出

いま日本で最もエキサイティングな街、神室町。
しかし、地図を探しても見つけることはできない。
人気ゲームソフト「龍が如く」シリーズの舞台として画面の向こう側に存在する。
20万本でヒットといわれるゲーム業界で、累計400万本を超えるセールスを記録。
最新作「龍が如く4 伝説を継ぐもの」も好評だ。
同シリーズの魅力は臨場感あふれるリアルさにある。
その独特の世界感を創造する上で重要な役割を担っているのが、
プログラマと、彼らを支えるITインフラだ。
スムーズな操作性はもとより、ビジュアルのクオリティに負けない、動きの質感を演出する。
1年1作のシリーズ作品だけに、開発期間も非常にタイトだ。
目には見えないプログラマの役割と、
ゲーム開発をサポートするCS R&D 推進部、そして時間を創り出す、
先進の分散処理技術について取材した。

セガのゲームソフト売上本数 世界で1,673万本 人気の源泉はコンテンツ開発力

街は生きている。そのダイナミックな息吹は、人に活力や安らぎを与え、ときに人生を翻弄する。いま、日本で最もエキサイティングな街が、東京にあるアジア最大の歓楽街、神室町だ。この春、新規スポットも続々オープンし、1日、何十万、何百万の人が訪れる。一度踏み入れたら、その魅力からはなかなか離れられない。 訪問者の数だけ、刺激と夢にあふれた神室町だが、地図にはのっていない。

テレビ画面の向こう側に、人気ゲームの舞台として存在する。最新作「龍が如く4 伝説を継ぐもの」では、ストーリーの重厚感、豪華キャストとともに、街そのものの魅力も倍増している。
居酒屋チェーンやドラッグストアをはじめ実在の店舗や商品がゲーム中のさまざまなシーンに登場する。一方、現実の世界でもタイアップ企画が次々と展開され、同シリーズならではのバーチャルとリアルが融合する演出もパワーアップしている。居酒屋でビールを飲んでいるとき、ふと隣に「龍が如く」の登場人物が座っているかもしれない。そんな既視感も魅力だ。

同シリーズを制作しているセガは、1960年設立以来、エンターテインメント分野の先頭を走り続けている。家庭用ゲーム機だけでなく、「バーチャファイター」「UFOキャッチャー」「甲虫王者ムシキング」など時代を象徴するアミューズメント機器を通じて多くのムーブメントを起こしている点も特長だ。

家庭用ゲーム機の分野でも「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」「ファンタシースターオンライン」など数多くのヒット作を世に送り出し、子供から大人まで世界中の人々を楽しませている。ゲームソフト売上本数は世界で1,673万本(2009年11月現在)、そのうち米国609万本、欧州816万本、日本・その他 247万本と、ワールドワイドでの高い評価は数字からもうかがえる。セガの人気の源泉、それはコンテンツ開発力だ。

人気ゲームソフト「龍が如く」の世界観を支えるために

年、20万本でもヒットといわれる中、「龍が如く」シリーズは累計400万本を超える。ゲームはもとより、映画や小説でも主人公や登場人物になりきれるかどうかは、面白さの分かれ道になる。だから同シリーズではリアルさに徹底してこだわっている。

「龍が如く4」のスタッフは100名程度。ゲーム開発は、プランナ、デザイナ、プログラマ、サウンドの4つの職種が協力して進めていく。ゲームの世界における動きと存在を担っているのがプログラマだ。
「ユーザがゲームに集中できるように、動きのなめらかさや、次のプレイへのスムーズな展開などに気を配っているのがプログラマです。また、画面の中のモノがよりリアルに動くということも大きなポイントになります」と、CS R&D 推進部 副部長の藤本光伯氏は語る。

3D技術の進歩によりビジュアルのクオリティが高まった分、動きの質感がますます求められてくる。物体の落下、変形、移動などの物理的な動きをシミュレーションする物理エンジンの性能が重要だ。「龍が如く」シリーズでは同社独自の物理エンジンを使っている。つくったのは、第一CS研究開発部 第一プログラムセクション シニアプログラマ 藁間直弘氏だ。

「市販でも著名な物理エンジンはありますが、「龍が如く」で求められる細部のリアルさはどうしても表現しきれませんでした。たとえば、重さをどう表すか。怒って重い段ボールを蹴ったのに発砲スチロールのように軽く動いてしまったら、怒りの強さは伝わりません。また質量があまりにも違うモノ同士を1つの画面上で共存させることも難しいのです。煙草の煙の後方で大きなトラックが動き出すといったシーンがあったとすると、トラックが煙のように軽く感じられたら、それは「龍が如く」の目指す世界観では許されないことです。独自の物理エンジンを使うことで、違和感のない物理的な動きの表現を可能にしています」

1年1作、人気シリーズは時間との戦い

「龍が如く」は、人気映画のように1年に1作のペースでシリーズ化されている。次はどうなるのか。続きを待つ楽しさも大きい。しかし、その分、開発サイドの負荷は増大する。
「一般的なゲームの開発期間は18ヶ月から24ヶ月といわれています。「龍が如く」シリーズは、2年くらいかかる規模でありながらも12ヶ月で開発しています」と、第一CS研究開発部 第二プログラムセクション グループリーダーの時枝浩司氏は話す。

しかも、12ヶ月がすべて開発期間になるわけではない。最後の数ヶ月は動作テスト、そして不具合の修正の繰り返し。ゲームを心ゆくまで安心して楽しめるように、動作テストは徹底して行われる。当然、開発作業はひっ迫していくが、ゆずれないところは安易に妥協したりはしない。「ゲームの開発もソフトウェアの開発も本質的な意味ではあまり変わりはありません。ただ、クオリティの良し悪しを決める基準が大きく違います。特に当社の場合、面白さがすべての基準になります」(藁間氏)

インタラクティブな要因が大きいため、ゲームの面白さは実際にやってみないとわからない。「仕様書通りにつくっても、面白くなければ作りなおします。ときには仕様書通りに作らないこともあります。結果として面白ければそれが正解なのです。作りなおせば、また動作テストが必要です。動作テストの回数が増えれば、ビルド処理の時間と回数もそれに比例して多くなります」(時枝氏)

ビルドに要する時間とはコンピュータの処理時間だ。ビルド処理を高速化できれば次の作業にすぐ移れる。ゲーム開発の効率性においてそのメリットは計り知れない。

※ビルド
ソースコードのコンパイルやライブラリのリンクなどを行い、実行ファイルを作り上げること。ソフトウェア開発では節目となるタイミングでビルドを行い、動作を確認し不具合を探して修正を加えていく。

ゲーム開発に時間を創り出す「IncrediBuild」

藤本氏が所属するCS R&D 推進部は、家庭用ゲームソフトの開発において、必要な機材、ネットワーク、ストレージなどの選定から導入、運用まですべてを担当している。開発部門に特化した情報システム部という位置づけだ。

同部がビルドの高速化を実現するツールとして着目したのは、ゾレアックス社のIncrediBuildである。ネットワークに接続された、複数のパソコンを用いてビルドを実行させ、分散コンピューティングを実現する。ビルドを実行するプログラマ用のパソコンの他に、ソースコードを書いているプログラマや企画を練っているプランナなどのパソコンの空きリソースを借りてビルドを行う。

「開発用のマシンは常に最先端のものを導入していますが、単体のパソコンのCPU性能をいくらあげても処理能力には限界があります。IncrediBuildを使うことで、現在の当社環境では、100台近いマシンのリソースを使ってビルドを実行できる。これにより従来27分かかっていたビルド時間がいまは2分です。」(藤本氏)
同社では「龍が如く 見参 ! 」の開発のときに初めてIncrediBuildを導入した。動機はPlaystation3のビルド時間をとにかく短縮したかったからだという。

現在、IncrediBuildは丸紅情報システムズが提供している。「今回に限らず、(丸紅情報システムズとは)昔からいろいろとお付き合いをしています。IncrediBuildに関しては、商流の調整をお願いし、必要なときに簡単に購入できるようになりました。また、サポート体制の強化面でも協力していただいています」(藤本氏)

取材時は「龍が如く4」の発売間近。藁間氏は戦士の休息といった状況、時枝氏は別のプロジェクトで山場の時期だった。次にどのようなゲーム開発に取り組むのかと尋ねると、取材の間、終始笑顔が絶えなかった藤本氏がまじめな顔でこう言った。「それは内緒です。ただ開発は続いていく。これからも新しいゲームは常につくり続けていきます」
多くのスタッフが夢と情熱を限りなく注ぎ、輝き続けるゲームの世界。日々の仕事に追われ、いつの間にか遠ざかってしまっていたが、また再びのめりこんでみたい、そう思わせるほどの魅力がここにはある。

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