ゲーム開発のビジネスではヒット作を生むことがすべてだ。日本最大級のオンラインRPG「ラグナロクオンライン」、全世界5,900万ダウンロードを突破したスマホゲーム「パズル&ドラゴンズ」、エポックメイキングな大ヒット作を世に送り出してきたガンホー・オンライン・エンターテイメント。インターネットやスマートフォンの普及など技術革新とともに新たな市場を創造する「新規タイトルの開発」と、ゲーム資産を様々な形態で提供するワンソース・マルチユースによる「既存価値の最大化」との両輪で「世界No.1のエンターテイメント企業」を目指す。面白くないゲームはリリースしない。社長自らが全てのゲーム開発の中心に立つ開発本位体制のもと、企画からデザイン、情報システム部門まで社員一丸となって「最高に面白いゲームを創る」ための挑戦が続く。
社長自らが企画責任者として開発の全てを統括
スマホを持つ2人に1人が遊んでいる計算となる国民的スマホゲーム「パズル&ドラゴンズ(以下、パズドラ)」。国内ダウンロード数は2016年12月時点で4,400万を突破した。国内のスマホ契約数7,715万人(2016年3月末時点、MM総研調べ)の半数以上の数字だ。全米でもダウンロード数は1,100万を越え、全世界で累計5,900万以上を誇る。
ゲーム好きのユーザを対象とする家庭用ゲーム機と異なり、スマホでは全ての人がターゲットとなる。パズドラは、パズルとRPGを融合した、老若男女が楽しめる新感覚のパズルRPGだ。スマホゲーム時代の幕開けを象徴するパズドラを開発したガンホー・オンライン・エンターテイメント(以下、ガンホー)とは、どのような会社なのだろうか?
2002年創業のガンホーは、日本では珍しいオンラインゲーム専業企業として誕生した。オンラインゲームはインターネットに接続して遠隔地のプレイヤーと対戦したり協力したりしながら、ゲームを楽しむことができる。ガンホーは、日本最大級オンラインRPG「ラグナロクオンライン」の運営事業を中心に、インターネットの急速な普及とともに成長した。ターニングポイントとなったのは、2009年に「開発のガンホー」へと経営方針の舵を大きく切ったことだ。「最高に面白いものを創る」ために、企画・開発・監修などゲーム開発の全行程を社長直轄にした。
「基本的に社長の森下が自分で納得しないものはつくらないという開発スタイルとなっています」と、システム運用部 システムマネージメント課 課長 塩澤昌樹氏は話す。ファミコン世代の塩澤氏は、ゲーム好きが高じて、ゲームがどのように開発されるのかを見てみたいという思いもあって入社したという。ガンホーの開発は、森下一喜代表取締役社長CEO自身が企画責任者として統括し、2〜3人で検討する。企画をカタチにしていくプロセスでは、組織を最小限の人数に分け、細かく分割された組織単位でプロジェクトを進めていく「感性主導型アメーバ開発」を採用。デザイナーやプログラマーなどのスタッフはプロジェクトに所属するわけではなく、必要に応じて参加し、スキルを発揮する。
社長自らがゲーム開発の中心に立つ開発本位体制のもと、2012年に生まれたのが「パズドラ」だ。ガンホーには「直感的」「革新的」「魅力的」「継続的」「演出的」の開発5原則があるという。「『直感的』は説明要らずで楽しめること。『革新的』は新しいものを生み出すこと。『魅力的』は世界観やキャラクターなどが人の心に響くこと。『継続的』は長く楽しんでもらえるように育てていくこと。『演出的』は簡単過ぎず難し過ぎずバランスが良いこと。この開発5原則のもと日々開発に取り組んでいます」(塩澤氏)
2016年11月、ガンホーの新作として、豪華クリエイターが集結した渾身のスマホ向けオンラインRPG「セブンス・リバース」の配信を開始。制作期間に3年を費やした同作は、事前登録者数が77万人を突破したことからもゲームファンの期待の大きさが窺える。最高に面白いゲームを開発したら、マルチプラットフォーム、アニメ、コミック、ホビーなどへ展開するワンソース・マルチユースにより、生涯顧客(ロイヤルカスタマー)への育成につなげていく。ガンホーは「新規価値の創造」と「既存価値の最大化」の両輪で「世界No.1のエンターテインメント企業」を目指す。
できるだけ早く50人が作業できる環境をつくってほしい
ゲーム開発は企画だけではできない。デザイナー、プログラマー、エンジニア、広報担当など全社員の一体感が重要になる。新作の社内レビューではゲームに対する社員の熱い思いが伝わってくるという。「リリース前に社員が遊んでみて、面白いかどうかをフィードバックしています。『ここはこう修正したほうがいいのではないか』とか。それが反映されるかどうかは別にして、意見は自由です。リリース後も社内レビューは続きます。『セブンス・リバース』も『どこまで進んだ』といった声がフロアのあちこちから聞こえてきて、みんなやり込んだものでした」と、システム運用部 システムマネージメント課 太田早紀氏は話す。
社長と社員の垣根も低い。ゲーム開発で使うツールについて、社長に担当者が直接プレゼンテーションすることも多いという。「当社の強みは先駆者であることです。インターネット発展期において『ラグナロクオンライン』によりPCオンラインゲーム市場を創造し、スマホ普及期では『パズドラ』によりスマホゲーム市場を生み出しました。技術革新とともに成長していくのが当社の特徴であり、ICTインフラや開発ツールも積極的に最新技術に取り組んでいます」(塩澤氏)
開発を支える観点ではシステム運用部の果たす役割は大きい。ゲーム開発ではスピードが欠かせないため、サポートにも迅速性が求められる。「『明日までに20台のPCを用意してほしい』、『このツールがすぐに必要だ』、このような開発からの要望にスピーディに応えるためには、どれだけ対応できる準備がしてあるかが大切です。『50人のスタッフが作業できる環境をつくってほしい』という案件のときは、総務部門と一緒に不動産を探して、機材から机、ネットワークまで1ケ月弱でオフィス空間を用意しました」(塩澤氏)
開発からICTインフラに関する要望ではレスポンスの向上が常に求められるという。「オンラインゲームはリリースして終わりではありません。例えばパズドラは10年、20年、孫の世代まで遊べる作品を目指しています。画像の高精度化などデータ量が急増する中、いかにレスポンスの向上を図っていくかは重要なテーマです」(太田氏)
2016年、同社はゲーム開発を支えるファイルサーバのリプレースに伴い、無停止で拡張できることやレスポンスの向上を目的にclustered Data ONTAP(以下、cDOT)搭載のNetApp FAS8020Aを導入した。
開発を止めることなく必要に応じて無停止で拡張
新しいファイルサーバの導入においてシステム運用部が最重視したのは開発の作業を止めないことだ。「スケールアウト型でハードウェアの追加によって無停止で拡張できるファイルサーバを求めていました。当社の要望に応えてくれたのがNetAppのストレージOS『cDOT』でした。cDOTによりシステムを止めることなく拡張できるため、開発作業に影響を及ぼすこともありません。新規構築に比べてコストも抑えられます」(太田氏)
レスポンスの向上も必須要件となった。「ゲーム開発のスピードの観点では、ファイルサーバのI/O性能が重要なポイントとなります。開発者の1人がファイルを更新すると、開発チームの他のメンバーが更新ファイルをダウンロードし、その後修正したデータをアップロードするなど、ディスクへのアクセスが多くなるためです。開発作業での高速レスポンスを実現するうえで着目したものが、NetAppのフラッシュ技術Flash Poolでした」(太田氏)
Flash Poolは、SSDとHDDが混在した構成の中でSSDをキャッシュとして利用することにより、読み取り/書き込みの高速化を実現する。使用頻度の高いデータは自動で判別されるため運用負荷も生じない。「SSDの処理速度のメリットとHDDのコストメリットの双方が享受できることも評価しました」(太田氏)
今回、Data ONTAP 7-ModeからcDOTへとOSの変更や、事業継続性を実現するためにDR(Disaster Recovery)システムの構築も行った。システム運用部は少数精鋭のため、オールラウンドに対応できることが求められる。「私はNetApp製品に触るのも初めてでした。ほとんどゼロからのスタートでしたが、丸紅情報システムズには基本的な質問にも丁寧に答えてもらい、きめ細かな技術支援のもとで、構築から移行、DRシステムの構築までスムーズに進めることができました」(太田氏)
2016年6月に本稼働した新ファイルサーバは安定稼働を続けており、ゲーム開発を支えている。「すごく速くなった」と開発者からの評価も高い。「実測値で2.5倍以上レスポンスが向上しています。日々の開発業務での様々なデータのやりとりの高速化をはじめ、コンパイラをまわしているときの待ち時間の大幅短縮など、開発のスピードアップにつながっています」(塩澤氏)
無停止運用の実現により、複数のプロジェクトが立ち上がっていても容量不足を心配する必要がなくなった。システム運用部には、ゲームを利用するお客様と同社のゲーム開発者、2つのタイプのユーザが存在するという。「両方のユーザの満足度を高めていくことを大切にしています」と塩澤氏は話す。
浅草サンバカーニバルへの参加でもエンターテイメントには手を抜かない
ガンホーは、監督兼キャプテンの森下社長のもと一丸となってゲームづくりに専心する1つのチームのようだ。毎年恒例行事となっている浅草サンバカーニバルへの参加でも抜群のチームワークを見せる。「企業チームの『ガンホーアミーゴス』として2015年は300人以上、2016年は人数を絞って200人程の社員が参加しました。2015年のとき、私は社内の3Dプリンターでメイク用のスタンプをつくりました。今年はカメラマンの役割を果たしました」と塩澤氏は笑顔で話す。
「私はメイク班のサポートをしました。メイクもデザイナーが担当していて、ゲームの人気キャラクターのシールを貼ったりして、ガンホーらしさを表現しています。踊るときの音楽も社内のスタジオを使ってつくるなど、エンターテイメントには手を抜きません」(太田氏)
同社は全国規模のファン感謝祭「ガンホーフェスティバル」をはじめ、リアルなイベントでファンとの交流を深めることにも力を注ぐ。ゲームを楽しむユーザもガンホーのゲーム開発における大切なチームの一員だ。