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経験と最先端のマシンをかけ合わせ。圧倒的なクオリティのモックアップを手中に。

そこには間違いなく1台のデジタルカメラがあった。質感、重さ、光沢具合、色……。今すぐにでも写真が撮れそうだった。だが、こう言われて驚いてしまう。「それ、商品のモックアップなのです」なんという精巧さ──。

そのモックアップを仕上げたのは、ソニーイーエムシーエス株式会社のイメージング&モデリング・サービス部だ。これほどまでに精巧なモックアップを作ることができるのはなぜなのだろうか。ソニーの底力に、迫った。

イメージング&モデリング・サービス部の心臓部

「ここは簡単に入れる場所ではないのです」

そう言われ、1つの部屋に案内された。部屋といってもテニスコートほどの大きさ。そこにさまざまな工作機械が置いてあり、社員が机の上で、目の前のモノをヤスリで削ったりしている。仕切られた別の空間では白衣のような服を着た別の社員が塗装をしている。服はインクで汚れ、職人のようにも見える。

もう1つの部屋に案内される。15畳ほどの広さ。そこには大きな機械が8台も並び、そのすべてが稼動し音を立てている。その横には幅5mほどの棚があり、つくられたモックアップがずらりと並んでいる。中にはきれいに塗装され、実際の商品にしか見えないものもある。モックアップというよりまるで工芸品のような雰囲気だ。

これらの空間が、ソニーイーエムシーエス株式会社イメージング&モデリング・サービス部のまさに象徴だ。同社は、ソニー株式会社100%出資のグループ企業である。「ソニーイーエムシーエスは、2001年にソニーのエレクトロニクス機器の最終商品組立を行う国内の12の生産事業所を統合する形で設立されました。液晶テレビの『BRAVIA®』、デジタル一眼カメラの『αTM』、家庭用ゲーム機の『プレイステーション』などのほか、放送局などで使われるビデオカメラやモニター、また光学レンズなどのデバイスも生産しています。また、お問い合わせや修理などのカスタマーサービスも行っています」

各生産事業所は「サイト」と呼ばれ、千葉県の木更津サイト、静岡県の湖西サイト、愛知県の稲沢サイトと幸田サイトの合計4サイトがある。社員数は約3,800人だ。

頭の中で完成品を思い描け

イメージング&モデリング・サービス部は以前、同じソニーグループのソニーテクノクリエイト株式会社に属していたが、2015年1月からソニーイーエムシーエスに移管された。しかし、業務内容は基本的に変わっていない。

「CADデータを使って設計やデザインなどを行うデジタルモデリング課、リアルタイムレンダリングなどを使って3DCGなどを作るビジュアルイメージング課などがあり、さらにモックアップを作るプロトタイピング課があります。プロトタイピング課がある建物は『蒲田ラボ』と呼ばれており、そこには、生産ラインのように大量生産するのではなく、工房のように職人たちが一品一品作っていくという思いが込められています」(髙田氏)

蒲田ラボには、ソニーグループから商品のモックアップ製作の依頼が次々と舞い込んでくる。依頼してくるのはデザイナーだ。

「図面をもらうのはもちろんですが、図面だけでは伝えきれない部分を打ち合わせによって理解し、デザイナーの要望どおりの高いクオリティのモックアップを作ることに全精力を注いでいます。 例えば、『黒色』と一言でいってもさまざまな濃淡の黒色があり、そうした所まで把握しなければいけません」(林氏)

精度が高ければ高いほど実際の商品に近づけられるので、改善すべき点がより明確になってくる。精度の追求はなくてはならないものなのだ。

髙田氏はこう語る。「担当者はデータをただ実物の形にするだけではありません。データ作成やデザイナーとの打ち合わせで、完成品を頭の中で思い描けてはじめてこの仕事が務まるのです」

頭の中で思い描いた完成品。それをモックアップという形にするのが蒲田ラボの仕事だが、以前は3Dプリンターでモックアップを作ることなど考えてもいなかった。

3D CAD化を機に3Dプリンターを続々導入

「デザイナーから2次元図面をもらっていました。それを見ながら職人技をもった社員が手で削ったり、旋盤などの機械を使ったりして一つ一つ仕上げていました。2次元の図面だけでは情報が足りないので、作る人の感性によって仕上げてしまうという感じでした」(林氏)

遠藤氏も「昔はモックアップを作る社員はいかにも力仕事をしているように見えたものです」と語る。

長い間、そうした時代が続いていたが、やがてマシニングセンターが入り、2000年代半ば入るとデザイナーが3D CADを使うようになり、紙の2次元図面が3D CADデータへと置き換わった。それを機に、それまでまったく使ったことのない機械の導入を検討することになった。

「3Dプリンターです。当時、少しずつ普及し始め、ほかの部署で実験的に3Dプリンターを導入していました。そして『これは実用的にも使えそうだ』と判断し、実際のモックアップづくりにも使うようになりました。2007年頃のことです」(林氏)

それを機に、次々に3Dプリンターが導入された。案内された部屋にズラリと並んでいた装置は、すべて3Dプリンターだった。

「何よりも変化したのはモックアップ製作にかかるスピードです。以前は1つのモックアップを作るのに週単位での時間がかかっていましたが、今ではデータを夕方に入力すれば翌日の昼間には出力できます。難しい形状はどうしても時間がかかっていましたが、形状に関係なく速く造形できる。今までとは全く違いました」(林氏)

コスト面でもメリットがあった。

「最終製品の形に近づけるなら機械加工の方が良いのですが、すべてをそれでやってしまうとどうしてもコストがかかってしまう。そうした場合に3Dプリンターで代替できる部分を3Dプリンターで造形して組み合わせればコスト削減につながります」(髙田氏)

3年前にはさらに幅を広げるべくもう1台3Dプリンターを加える。Stratasys製3Dプリンター『Dimension』だ。
「Dimensionのメリットは、ABS樹脂を使っているため、最終製品と同じ材料であることが多く、イメージをつかみやすいことが一つ。もう一つは強度があることで、強度が必要なカバー系のパーツなどに多く使っており、自分たちで設計してDimensionで治具を作ることもよくあります」(遠藤氏)

ソニーグループ以外からも舞い込む仕事

3Dプリンターを導入してすでに8年ほど。最近はデザイナーも3Dプリンターの特徴を把握し、モックアップ製作の依頼の際に3Dプリンターの機種を指定してくることもあるという。

「今の所、3Dプリンターの機種であれもこれもできるという万能機種はありませんので、それぞれの特長を掴んで良い所取りをして使っていくのがベストな選択と考えています。そのため、モックアップを作るときも、それぞれの特長が最大限活かせるように商品やその部位、目的などによって3Dプリンターを使い分けています。これまでは、我々の方からそうした使い分けを提案していたのですが、最近はそれがデザイナーにも浸透してきたというわけです」(林氏)

クオリティにこだわる蒲田ラボでは、3Dプリンターのほかにマシニングセンターなども現在使用している。

「ボタンまわりは複雑な形状が多く、削り出しでは時間がかかってしまう。そうした部分は3Dプリンターを使います。逆に大きいものは削り出しによって対応し、その2つを組み合わせた後に塗装することで一体感が出たりします。3Dプリンターにせよマシニングセンターにせよ、それぞれ良い所がある。その良い所だけを集め、精度を高めているのです」(林氏)

髙田氏は「3Dプリンターによる造形のほか、機械加工、塗装、シルク印刷までできる点が当社の強みだと思っています」と力を込める。

こうして非常にハイレベルなクオリティのモックアップを作っている蒲田ラボ。その評判が広がったためなのか、最近ではソニーグループ以外からの仕事も増えている。

「あるデザイン学校の生徒が、雑誌が主催する『未来のバイク』というテーマのコンテストで、オートバイのデザインを出品して賞を取りました。その学校の先生が『せっかくだから形にしたい』と我々へ相談に来られ、3Dプリンターで出力することになりました」(遠藤氏)

「また、エンジンをシースルーで見せたいという依頼を受けて、3Dプリンターなどを使って実現した仕事もあります。ソニーグループ内でも、3Dプリンターで社長賞のトロフィーを作ったこともあります」(髙田氏)

3Dプリンター+αで統合的3Dソリューションを

3Dプリンターによって新たな境地を開いたイメージング&モデリング・サービス部だが、決してこれで満足しているわけではない。

「3Dスキャナ、3DCGリアルタイムレンダリングを活用した統合的3Dソリューションを考えています。3D CADデータがあるわけですから、3Dプリンターで出力するだけでなく、CGにするなどして、モックアップの代わりに検証で活用することも考えています」(髙田氏)

その統合的3Dソリューションはすでに少しずつ動き出しつつある。

「古い商品の場合、当時の図面がなくなっていることがあります。その場合、部品が壊れると供給することができません。そこで、部品の実物を3Dスキャナで読み取り、それを3Dプリンターで出力することで供給することができないかと考えています」(遠藤氏)

「今後はソニーグループ以外からの仕事もどんどん増やしていく」と意気込む髙田氏。3Dプリンター+αで、未踏の地へ歩み出そうとしている。

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