わずか10年で業界トップクラスの登録者数300万人を突破した「しまうまプリント」。同社の強みである低価格・高品質・スピード出荷を可能にしているのが、巨大プリントラボ設備や社内システムによる徹底した効率化と自動化の推進だ。その一環として、同社は年賀状印刷サービスの目視による品質チェックの自動化を図るべく画像検知システムを導入した。MSYSとイーツ、NSDの3社による密な連携により、しまうまプリントの要望を具現化し、作業件数の7割を削減するとともに、作業要員を1/10に削減させた。1件当たりの処理時間も1/10に短縮し、コロナ禍の巣ごもり需要に伴う年賀状サービスの注文増大にも柔軟な対応を可能にした。経営からも高い評価を獲得し、グループ内での応用も検討されている。
- 年賀状の目視による品質チェックを効率化したい
- 年賀状シーズン(繁忙期)の人材不足を解消したい
- 年賀状の注文増加に対し柔軟に対応したい
徹底した効率化と自動化により、低価格・高品質・スピード出荷を実現
スマートフォンのカメラで撮影したデジタル写真の楽しさを広げるネットプリント。2010年設立の「しまうまプリント」は、10年で業界トップクラスの登録者数300万人を突破し、その勢いはとどまる所を知らない。同社がお客様の心を掴んでいる理由は、他社の追随を許さない「低価格・高品質・スピード出荷」にある。7円/枚で最短翌日スピード発送の写真プリントサービス、1冊最安198円で作成し最短当日出荷のフォトブックサービス、宛名印刷・投函代行・宅配便送料が無料で3日後までに発送する年賀状サービスなど、お客様目線に立ってコストパフォーマンスや手軽さを追求している点が、同社の強みだ。
価格と品質、スピードという相反する3つの要素をいかに実現するか。同社では、高性能・高品質プリンターの採用など最新設備を備えた巨大プリントラボと、インターネットでの受注から生産、流通までを担う自社システムにより、徹底した効率化と自動化を図っている。また、スマートフォンを使って注文するサービス利用者の増加に伴い、表示速度やユーザビリティの向上にも力を入れている。
しまうまプリントは、リアルとネットの融合により、写真文化のインフラ構築や商品・サービス開発など、イメージング領域において新たな顧客価値創造に取り組むキタムラ・ホールディングスの一員だ。2020年4月、グループ再編に伴い、旧しまうまプリントシステムは、サービスを運営する「しまうまプリント」と、ラボ機能に特化した「しまうまプリントラボ」に分社化した。その狙いについて、しまうまプリント 執行役員インフラ部 部長 小林徹聡氏はこう話す。「グループ内の販売と生産に関して、横断的連携により競争力や効率化の向上を図る狙いがあります。コロナ禍の外出自粛に伴い、当グループではリアル店舗や写真撮影サービスなど含めほぼすべてのサービスで何らかの影響を受けました。コロナ後のビジネスを見据え、シナジー効果を高める様々な取り組みが動き始めています」
コロナ禍の巣ごもり需要により、しまうまプリントのネットプリント事業は一時的ではあるが売上増大につながったと小林氏は振り返る。「自宅にいる時間が長くなり、パソコンやスマートフォンに溜まった画像を使ってフォトブックをつくって楽しむ人も多かったのではないでしょうか。また人と会う機会が制限されたことで、“今年は年賀状を出そう”という機運も高まったと考えています」 従来、年賀状サービスの増産において、目視による品質チェックがボトルネックとなっていた。2020年末、年賀状サービスの注文増加に応え、利益拡大に貢献したのが、画像検知技術を活用した品質チェックの自動化だった。
年賀状の目視による品質チェックでは、繁忙期の人員確保、属人化が課題に
年賀状サービスビジネスは、11月末から12月半ばまでの短期決戦となる。膨大な枚数に対応しつつ、いかにスピードと高品質を実現するか。「通常ですと年賀状はお客様が正月に相手の方にお届けするため、それに合わせて事前にお手元に届くようにする必要があります。」と小林氏は話し、「年始の挨拶代わりとなるため、キレイな年賀状を送りたいというお客様の想いにしっかりと応えることが使命と考えています。」と強調する。
同社の年賀状サービスでは、お客様がインターネットを通じて注文し最終確認したプレビュー画面をもとに、印刷するための画像データを作成する。同社では、プレビュー画面と出力用画像データが同じであることを年賀状の品質と位置付けている。品質チェックには細心の注意を払っていると小林氏は話す。「年賀状という短期間限定サービスから来るものですが、パソコンを並べて、プレビュー画面と出力用画像データを見比べ、画像の位置、文字の大きさ、色合い、画像や文字の抜けなど、チェックリストに則り1件1件について目視でチェックしています」
従来の目視による品質チェックの課題について小林氏は言及する。「属人化による品質の差に加え、1人で1日何千件もチェックするため、常にミスが生じるリスクがありました。また、ほとんどが品質に問題がないことから、集中力を保つのも容易ではありません。プリント設備は高い処理能力を備えているのですが、目視で1件チェックするのに約10秒を要することが増産に向けての課題となっていました。さらに人手不足の中で、人員確保も大変でした」
2018年、目視による品質チェックに限界を感じていた小林氏は、自動化を模索していたという。「当社のシステム運用や自動化を支援してくださっている丸紅グループのイーツとMSYSから、AIを活用した新技術領域に取り組むNSD先端技術研究所を擁するシステムインテグレーターのNSDをご紹介いただきました。まずは当社からサンプルデータを提供し、目視による品質チェックの自動化について実現可能性を検討してもらいました」
フィルタリング技術とチューニングにより、人の判断という曖昧さを含む差分検知を実現
今回、画像検知分野の中から差分検知技術を採用している。目視チェックの自動化を差分検知技術により代替する難しさは、差分検知そのものではなく、人間が見て判断するという曖昧さを含む検査を自動化するという点にある。問題の本質について小林氏はこう説明する。
「差分検知を徹底して行うと、全件で差分を検知しエラーとなってしまいます。お客様の見ている環境や画像データ作成処理など様々な要因から、プレビュー画面と出力用画像データが100%一致することは不可能だからです。大事なのは、お客様が見て納得していただけるということです。ただ、お客様によってOKとする基準が異なるため、その判断をすべて差分検知技術によるシステムに任せることは、現実的ではありません。目標としたのは、システムが80%までOKを出し、エラーとなった20%に関して人が判断するというものです」
しまうまプリントから提供を受けたOKとエラーのサンプルデータをもとに、人の判断と同じ結果を出すべく、NSDは差分検知に関する技術や知見、ノウハウを駆使し、様々なフィルタリング技術やツールを組み合わせて細部にわたりチューニングを行った。開発に着手して数カ月後、MSYS、イーツ、NSDの3社から、しまうまプリントに提出された中間報告に対し、小林氏は「非常に納得できる内容でした。これなら、できると思いました」と振り返る。「私たちが見てOKと判断するものがエラーになっていたケースに関して、さらに精度を上げるべくチューニングしていただきました」
自動化により目視チェック件数の70%を削減
1件当たりの処理時間も1/10に短縮
2020年末の年賀状シーズンに、画像検知による品質チェック自動化システムは本稼働した。「システムで全件数のうち70%までOKとの判断を出すことができました。まだβ版の段階と捉えていますが、この結果は高く評価しています」と小林氏は話し説明を加える。
「自動化により目視チェック件数を70%削減できた効果は非常に大きいです。残りの30%だけを人間が確認したため、人員を1/10に削減、属人化からの脱却によるチェック品質の均質化、教育を含む人件費の大幅な削減を図れました。また目視に比べて1件当たりの処理時間も1/10に短縮し、コロナ禍における年賀状需要の増加にも柔軟に対応できました。現場の工場長も、とても助かったと話しています。経営からは、確実に利益に貢献できる要因となったことで、大きな期待を寄せられています。2021年度には精度をさらに向上し、システムによる判断を80%まで高めていきます」
今回、年賀状サービス事業の拡大に対し、目視チェックというボトルネックを解消することで、変化に強い柔軟な生産体制を確立できた。人間とは異なり、システムは休むことなく24時間運用し品質チェックを行うことも可能となる。また増産のニーズにも、クラウドサーバを追加しスケールアウトするだけだ。「画像検知による品質チェックの自動化についてグループ内での応用も検討しています」と小林氏は話し、今後の展望についてこう述べた。 「コロナ後に向けて、ニューノーマル時代の新たな写真の楽しみ方の提案は、当社の重要なテーマです。低価格・高品質・スピード配送のさらなる追求に加え、新たなサービスの創造に注力するために、自動化の領域を拡大していくことが必要です。MSYSとイーツには、これからもタイムリーに先進的な提案をお願いしたい」
経営理念「写真をもっと楽しく、想い出をもっと身近に」のもと、デジタル時代の写真の可能性を拓く「しまうまプリント」。MSYSはイーツ、NSDと密に連携し、同社はもとより同グループが牽引する写真文化の発展に寄与する。