ダスキン事業と経営サポート事業の両輪で18年連続増収を続ける武蔵野。“経営のカリスマ”小山昇氏が率いる企業としても知られている。同社はダスキン事業のコールセンターに、オペレーターの業務効率化とともにお客様の生の声を営業に活かすべく、AI(人工知能)による音声テキスト化の導入に取り組んだ。スモールスタートで複数社のAIサービスを動かしながら評価し採用したものが、丸紅情報システムズのコールセンター向けクラウドAIサービス「MSYS Omnis」である。試験導入期間中、MSYS Omnisにより応対後の業務報告書作成時間が従来よりも平均5分短縮できたことも決め手の1つとなった。今後、同社の既存FAQとの連携による応対レベルの平準化などさらなる進化を図っていく。また経営サポート事業においてコールセンターにおけるAI活用の現地見学会も開催する予定だ。
- 限られた人数のオペレーターで効率良く運営したい
- コールセンターに寄せられたお客様の生の声を営業に活かしたい
- オペレーターの応対レベルの平準化を図りたい
18年連続増収を実現、日本経営品質賞※1を二度受賞
これまで2万3,000人に及ぶ見学者がその会社を訪れた。彼らの目的は、儲かる仕組みを知ること。今も全国から経営者を中心に見学者が後を絶たない、会社の名は「武蔵野」だ。地域に密着したダスキン事業と経営サポート事業の両輪で18年連続増収を続ける同社を率いているのが、メディアで採り上げられる機会も多い “経営のカリスマ”小山昇氏である。
1989年、小山氏が社長に就任した当時、武蔵野は倒産の危機に瀕していた。「武蔵野は正真正銘の落ちこぼれ集団でした」と同氏は振り返る。わずか10年で経営を立て直した同氏の手腕は、2000年の日本経営品質賞受賞に結びついた。同賞は顧客視点で経営を見直し、経営革新を進める企業を表彰する制度である。武蔵野の受賞理由はトップダウンの経営と、顧客視点での改善の継続、社員一人一人の成長を促す仕組みが高く評価されたものだ。この受賞をきっかけに、同社は新たなビジネスモデルとして経営サポート事業を発足させた。
同事業は一般的な経営コンサルティングとは一線を画す。その独自性について小山氏はこう語る。「みなさんが知りたいのは、『なぜ武蔵野が18年連続増収を実現できるのか?』という点です。その疑問に対しセミナーだけでなく、武蔵野の現実・現場・現物を“経営の動くショールーム”として公開することで“儲かる仕組み”を自ら体験してもらう。その日からすぐに真似して実践できます」
小山氏をはじめ武蔵野の講師陣に経営コンサルティングを依頼した企業は、建設業、製造業、小売業など業種も様々だ。指導企業720社(2019年5月現在)のうち400社が過去最高益を達成したという。豊富な実績は同社の実践的コンサルティング力の高さを実証している。
2010年、同社は日本企業として初めて二度目の「日本経営品質賞」を受賞した。社長の強いリーダーシップ体制から、現場主導型の経営体制への変革が高く評価されたのが受賞理由だ。現在、アルバイト・パートを含め従業員数800名で売上75億円を突破した。快進撃を続ける同社の基盤となるダスキン事業は、東京都の武蔵野地区を中心に小さな市場で大きな占有率を確保するという考えのもとでビジネスを展開してきた。その成長を支えているのが、1.お客様第一主義、2.環境整備、3.経営計画書の3本柱である。
※1 日本経営品質賞:1995年12月に創設された「日本経営品質賞」は、顧客視点から経営を見直し、自己革新を通じて新しい価値を創出し続ける企業を表彰する制度。米国マルコム・ボルドリッジ国家品質賞、欧州経営品質賞に並ぶ賞として世界的に注目を集めている。
AIによりコールセンターや営業の仕事のやり方を変える
1つめの柱のお客様第一主義は、顧客視点を重視する「日本経営品質賞」の二度受賞からもその徹底した姿勢が窺える。2つめの柱の環境整備とは、仕事をやりやすくする環境を整えて備えることだという。「例えば、モノの置く場所が決まっていることが大切です。人によって置く場所が異なっていると、それを必要な人が探しまわらなければなりません。IT化にしても、情報が決められた場所に保存してあることで有効活用が可能となります」と小山氏は説明する。働く環境整備の観点から、同社はアルバイト・パートまで全員にタブレット端末を支給し業務で活用している。「多くの企業がまだ紙をベースに仕事をしています。当社は、IT化することでデータを活用し空中戦を展開し、ビジネスのスピードを格段に向上させました。大切なことは、全員が同じ最新機種を利用し業務を標準化することです。IT化による生産性の向上が、残業の減少と連続増収の両立を可能にしています」
3つめの柱の経営計画書は、社員一人ひとりが常に携帯し、社長の理念や経営方針を浸透させるための会社のルールブックだ。経営の目標数字やスケジュールなどもすべて明記されているという。「経営計画書は1年に1回、更新しています。最初は、私がつくっていました。今は章ごとに幹部社員に割り振って、みんなで考えてもらっています。自ら考えることで理解が進み、自身の問題として捉えることが可能になるからです」と小山氏は話し、2018年度版の「経営計画書」のあるページを開いた。「長期的にお客様のお役に立つキャリアプランを充実する」といった目標の中に、「AI(人口知能)の導入に積極的に投資する」という記載があった。なぜ、AIの導入なのか。「今と同じではいずれ会社はダメになります。今を捨てることで、未来を拓く。AIによって今までの仕事のやり方を捨てることができると直感しました」と小山氏は話す。
同社がAIを使って何ができるのかを検討した中に、ダスキン事業におけるコールセンターへの導入があった。「AIによりオペレーターの業務の効率化や平準化を図るといった使い方は第一段階に過ぎません。お客様と同じように、営業もわからないことがあったとき、そこにアクセスすることで答えがすぐに返ってくる仕組みをつくりたいのです。『お客様が何を必要としているのか?』、その答えはコールセンターにあります。『お客様を先生』にしなければ社内で集まって何度ミーティングしても役に立ちません」と小山氏は話し、こう続ける。
「情報を有効活用するために、情報を置く場所としてデータベースを構築しました。次に課題となるのは、膨大なデータの中からいかに必要な情報を見つけ出すか。AIを活用することで、探す手間という無駄をなくす。そのために、まずコールセンターにおいてお客様とオペレーターとの会話を、AIによる音声認識でテキスト化することが必要でした」
スモールスタートで複数社のAIサービスを導入・評価し「MSYS Omnis」を採用
2018年9月、同社は数席のスモールスタートで複数社のAIを導入した。「AIにもそれぞれ特徴があるため、実際に動かしてみないと当社のコールセンターに適用したときに何が問題なのかもわかりません。運用していく中で、音声認識率が低い、リアルタイムでの変換が遅いなど問題が見えてきました。それらを改善していくことに時間をかけるのはもったいないので、すでに解決しているベンダーに変えていきました。新しいことへのチャレンジは、これが正しいという答えがありません。実際に動かしながら答えを求めました」(小山氏)
同社は5カ月間をかけて1つの答えを導き出した。それが、丸紅情報システムズのコールセンター向け音声テキスト化サービス「MSYS Omnis」だった。同社はAvaya製品を活用した丸紅情報システムズのコールセンターソリューションを導入していたことから今回声をかけたという。「丸紅情報システムズは先駆的なことに取り組んでいる会社だと思っています。会社の中に先進技術の種がある。そこに期待感を持ちました」(小山氏) コールセンターへのAI導入を担当した現場担当者によるMSYS Omnisの評価ポイントは、大きく3点あった。
- 従量課金で利用できるクラウドサービスであること
- 短期間でサービスを利用開始できること
- チューニングレスでの運用が可能であること
MSYS Omnisは、 Google™ が提供するクラウドコンピューティングのプラットフォームGoogleCloud Platform™ を活用している点が大きな特長だ。 Google の最先端技術を活用することで「チューニングの手間なし」で実用レベルの高い認識精度を実現する。またクラウドサービスのため設備投資が不要となり、初期導入コストを抑制できる。さらにサービス利用企業ごとに専用のインスタンス※2を構築するため、データが混在することはない。
「シンプルで簡単に動かせることはとても重要です。複雑化すると、開発コストや時間がかかることに加え、運用する手間も増えるため本来業務と関わりのない無駄が生まれてきます」と小山氏は付け加えた。
※2 インスタンス:コンピュータプログラムなどを展開し処理・実行できる状態にしたもの。 個々の利用企業(テナント)向け環境を収容する実体のこと。
音声テキスト化により応対後の業務報告書作成時間を平均5分短縮
MSYS Omnisをスモールスタートで導入していく中で、大きな導入効果があらわれてきたという。これまで同社では、応対後にオペレーターがお客様との会話のメモをもとに社内共有のための業務報告書を作成していた。メモの不明点を確認するためにお客様との会話の録音を聞き直すのだが、平均15分の録音内容から目的の箇所を探し出すのは大変だった。MSYS Omnisの導入によりAIでオペレーターと顧客の会話をテキスト化することで、目的の箇所も見つけやすく、コピー&ペーストによる入力時間の削減などにより業務報告書の作成時間が平均5分短縮できた。「1回の応対で5分の時間短縮、1日5回応対したとして25分の時間短縮になります。時給1,000円と想定すると、1日で250円の純利益が増えることになり、さらに人数分を掛け算すると大きなコスト効果を生み出します」(小山氏)
2019年3月、同社はMSYS Omnisを本格的に導入した。今後、小山氏が期待しているのが、音声テキスト化によりお客様の生の声を営業現場に届けることができるという点だ。同社では業務報告書以外にも、お客様の疑問点やクレーム、期待したことなど会話のサマリーを、営業支援としてメールで担当営業に送っている。従来方式の問題は、サマリー作成者のスキルによってポイントの捉え方が異なってしまうことだ。「これからは音声テキストをコピー&ペーストしてメールに添付することで、お客様の生の声を迅速かつそのまま営業担当に提供することができます。これは凄いことです」
また、同社は既存FAQデータベースと音声テキスト化した情報を連携することで、オぺレーターの応対レベルの平準化も図っていく。MSYS Omnisはリアルタイムで音声認識が行われるとともに、キーワード登録したワードがハイライトされるためポイントがわかりやすい。お客様からの質問に対し、オペレーターはそのテキスト箇所をクリックするだけで、AIが回答候補を表示してくれるため、新人オペレーターでもお客様と会話しながら質問に的確に回答できる。情報を探したり、人に聞くために離席することもなくなる。さらに、お客様の発話に合わせた自動応答サービスや、発話内容に応じて適切な応対フローに自動的に振り分けるなどの機能を提供するOmnis IVRの導入も検討している。コールセンターのニーズに応じて、様々なサービスを利用し進化できることもMSYS Omnisの大きなメリットだ。
同社における“経営の動くショールーム”の1つとして、現地見学会でAIを活用したコールセンターの紹介を行う予定と小山氏は話す。「中小企業にとってAIの導入は、コスト面でも技術面でも非常にハードルが高くなります。今、動いていて効果を出している会社の仕組みをそのまま真似していくことが、中小企業にとって正しいAIの使い方です。AIで何ができるのか。机上の空論ではなく、現実・現場・現物で体験してもらう。現地見学会では、参加者から“気づき”を得ることもたくさんあります。その“気づき”を丸紅情報システムズに伝えることで、仕組みはさらに洗練されていきます。AI活用においてもお客様が先生です」
丸紅情報システムズは、今後もコールセンターにおける働き方改革の一環として、また実店舗での対面業務における応対入力業務の効率化、お客様の生の声を活かした営業支援などにMSYS Omnisを提案し、企業の経営課題の解決に貢献していく。